結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 思わずのけ反ったが、背後は壁だ。これ以上逃げることもできず、追いつめられた状況になる。

「ほ、本当だから」

 手を振りながら、心配はいらないとアピールをする。

「なにか、利用されてるんじゃいのか? いくら彼が社長で、会長の息子だからって、なにも後ろ暗い噂のある男を選ばなくても」

「彼は噂されているような人じゃないの。ちゃんと私を気遣ってくれるし」

 言葉を重ねる私に、岡本君がさらに顔を近づけてくる。

「言わされているだけじゃないのか?」

「そんなことないから。たしかに急な結婚だったけど――」

「瑞希」

 これ以上追及されても、なにも答えられない。焦りがピークに達したところで、不意に名前を呼ばれて視線を向ける。数メートル先にいたのは、冬馬さんだ。

 それに気づいた岡本君が、さっと体を離す。

「なにをしているんだ?」

 私の隣に来た冬馬さんが、鋭い視線を岡本君に向ける。

「青山が結婚をしたというので、真偽を確かめていたんです。あまりにも突然だったので、騙されたり利用されたりされているんじゃないかと。彼女は結婚なんてしないと、ずっと言い続けていたので」

 岡本君は何事にも動じない人だと思っていたが、あきらかに不快そうな冬馬さんを前にしてもそれは変わらないらしい。飄々と受け答えをする彼に、見ているこちらがハラハラさせられる。

 そんな岡本君の様子に、冬馬さんが眉をひそめた。

「真偽もなにも、そこに書いてある通りだ」

「でも、あなたは少し前までほかの女性と……」

「プライベートなことに、口出しは不要」

 きっぱりとそう言う冬馬さんに、さすがに岡本さんも口を閉じる。

「行くぞ、瑞希」

「え、ええ。それじゃあ」

 冬馬さんに続いて、その場を後にする。
 岡本君に声をかけたが、彼からはなにも返ってこなかった。

「瑞希」

「はい」

 すたすたと歩く冬馬さんについて行くには、早足になる。
 わずかに息を弾ませる私に気づくと、ようやく歩調を緩めてくれた。
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