結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「さっきのは、企画部の岡本だな」

「そうですけど?」

 こちらを見ることもない、冬馬さんの背を見つめながら返す。

「元、交際相手か?」

「は?」

 唖然として、取り繕うことも忘れて素の声が漏れてしまう。そこで、ようやく冬馬さんが振り返った。

「い、いいえ。ただの同僚です。企画部時代の付き合いがあるので、声をかけてくれただけです」

「……それならいいが」

 淡々とした様子はいつも通りだけれども、若干苛立っているような口調だ。

「既婚者になった身で、ほかの男にうつつを抜かされては困る。目的は噂の払拭だからな」

 ただ話していただけなのにと、ムッとする。

 でも、さっきの岡本君の様子はどこか切羽詰まった感じで、私ににじり寄っていた。見る人によっては、勘違いしかねない距離感だったかもしれない。

「わかっています。社長の方こそ、これ以上の噂が立たないように気をつけてください」

 職場だから、あえて〝社長〟と呼ぶ。

 これくらい言っても許されるはずだと口にしたが、冬馬さんはジロリと私を見ると、なにも言わずに前を向いた。

「定時後、秘書課で待ってろ」

「え?」

 意味がわらからない。

 戸惑う私を放って、話はそれだけだというように背中を向けてしまう。

「予定、なにもなかったはずだけど……?」

 ぽつりとこぼしたが、すでに去っていく冬馬さんに届くことはなかった。


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