結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
それからも自分に向けられる興味津々な視線に気づかないふりをしながら、とりあえず仕事をこなした。幸い、秘書課の中では室長が目を光らせているのもあり、下世話な話に興じるような空気はない。場を和ませる会話はあるものの、社長をはじめ上役も出入りする場でもあるため同僚らも弁えている。おかげで、なにも聞かれずに済んでいた。
定時になり、身の回りを片づけ始める。レストルームで軽くメイクを直して席に戻ってきたところで、秘書課の入口がざわついた。
「瑞希」
冬馬さんだ。彼がここへ来ることはあるものの、もちろん仕事で用があってのこと。こんなふうに一社員を親しげに呼ぶなんて誰に対してもなくて、同僚らが私と冬馬さんの間で視線を行き来させている。
私も含めて誰もが戸惑っている間に、冬馬さんがこちらに近づいてくる。隣に立ち止まると、わずかに身を屈めて私の顔を覗き込んできた。
「しゃ、社長」
「もう定時は過ぎている。節度は必要だが、俺も仕事を終えてきたところだから、ここからはプライベートな時間だ」
普段の彼の雰囲気とはまったく似合わない、少しだけ甘いセリフ。表情はほとんど変わらないが、気持ち口角が上がっているかもしれない。もしくは、慣れないことに引きつっているのか。
それでも、いつもとはなにかが違うと思わせるには十分に違和感のある振る舞いだと思う。
うろたえる私に、冬馬さんは荷物をまとめるようにテキパキと指示を出す。そうして、ふたりそろって秘書課を後にした。
その間、彼の片手はずっと私の腰に回されたまま。この状況がよくわからない。
傍から見たら新妻を気遣う夫かもしれないが、当事者の私にとっては強制的な誘導でしかない。いっさい立ち止まらせないという力加減で進まされて、エレベーターに乗り込んだ。居合わせた人たちが、私たちの距離感を見て目を見開いているのがいたたまれない。
定時になり、身の回りを片づけ始める。レストルームで軽くメイクを直して席に戻ってきたところで、秘書課の入口がざわついた。
「瑞希」
冬馬さんだ。彼がここへ来ることはあるものの、もちろん仕事で用があってのこと。こんなふうに一社員を親しげに呼ぶなんて誰に対してもなくて、同僚らが私と冬馬さんの間で視線を行き来させている。
私も含めて誰もが戸惑っている間に、冬馬さんがこちらに近づいてくる。隣に立ち止まると、わずかに身を屈めて私の顔を覗き込んできた。
「しゃ、社長」
「もう定時は過ぎている。節度は必要だが、俺も仕事を終えてきたところだから、ここからはプライベートな時間だ」
普段の彼の雰囲気とはまったく似合わない、少しだけ甘いセリフ。表情はほとんど変わらないが、気持ち口角が上がっているかもしれない。もしくは、慣れないことに引きつっているのか。
それでも、いつもとはなにかが違うと思わせるには十分に違和感のある振る舞いだと思う。
うろたえる私に、冬馬さんは荷物をまとめるようにテキパキと指示を出す。そうして、ふたりそろって秘書課を後にした。
その間、彼の片手はずっと私の腰に回されたまま。この状況がよくわからない。
傍から見たら新妻を気遣う夫かもしれないが、当事者の私にとっては強制的な誘導でしかない。いっさい立ち止まらせないという力加減で進まされて、エレベーターに乗り込んだ。居合わせた人たちが、私たちの距離感を見て目を見開いているのがいたたまれない。