結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 そろってエントランスに並び立つと、あらゆる方向から無遠慮な視線を向けられる。私に回された彼の腕に気づくと、もれなく驚いた顔になった。

 もしかしたら、私も彼らと同じような表情をしていたかもしれない。冬馬さんのこの行動は、私にとっても予想外のものだから。

 元婚約者の笹島さんが、エントランスから出たところで冬馬さんに近寄る姿を数回見たことがある。
 ふたりの婚約がささやかれていたのは、四カ月くらいの間だっただろうか。積極的な彼女は、いつも甘えるように軽いボディータッチを繰り返していた。

 今思い起こしてみれば、私の見た中では冬馬さんの方から彼女に触れることはなかったように思う。というか、その手を振り払っていた気がする。彼の態度からはいっさい親しさを感じられず、ほぼ無視していたように見えていた。

 一度だけその真横を通ったときなんて、『俺につきまとうな。帰ってくれ』とずいぶんな塩対応で追い払う声も耳にした。それでもめげない笹島さんは、よほど彼のことを好きだったのか。

 彼女は何回も押しかけていたから、おそらくふたりが一緒にいる場面はそれなりに目撃されていたはず。そのどのときの彼も、私が目にしたような冷たい対応をしていたのだとしたらどうだろうか。今のこの冬馬さんの振る舞いは、皆にとって信じられないのかもしれない。

 とにかく、たくさん見られていると思うと落ち着かない。

 でも隣の彼は、まったく動揺していないらしい。というか、周囲の目なんて気に留めていないようだ。

 外に出て、正面に待たせてあったタクシーにさっさと乗り込む。

 ドアが閉まると、途端に冬馬さんの雰囲気が普段通りに戻る。足を組み、ドアに肘をついて手に顎を乗せた。もちろん、私にはいっさい触れていない。

 理解が追いつかないこちらは、まるで置いてきぼりだ。

「ええっと?」

 この状況を説明してほしいと、視線を向ける。

 チラッとこちらを見た彼は、いかにも面倒だというようにため息をついた。
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