結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「もう無理。婚約は、破棄させてもらうから!」

 笹島さんが放った衝撃的なひと言に、無関係にもかかわらず思わず息をのむ。

 これ、大丈夫?と周囲を見回したが、足を止めてふたりを凝視していた何人かも怪訝な顔をしていた。

 こんな状況なのに、眉ひとつ動かさないで無表情を貫く進藤社長はどれほどの強心臓なのか。
 というか、あの人に心はないのか。詳しい事情は分からないけれど、彼女の話が事実だとしたら、仲違いの原因の多くは進藤社長にあるように思う。
 すまなかったとか、誤解だとか、どうしてなにも言わないのだろう。

「……話はそれだけか」

 ようやく口を開いたかと思えば、出てきたのは感情のないひと言。あまりの冷たさに、さすがに彼女がかわいそうになる。

 感情の昂りを抑えきれず、笹島さんの顔が赤く染まる。
 進藤社長はそんな彼女をなだめるでもなく、無情にも背を向けた。

「なっ、どうなっても、しらないわよ」

 なにやら脅しめいた言葉を言われているが、彼に振り返る様子はない。その向かう先は社内のようで、ちょうど私がいる方面だ。

 ハッとして私も動き出す。
 タイミングを同じくしてふと顔を上げた彼と目が合ってしまい、慌てて視線を逸らす。

 一部始終を見ていたのは、バレているだろうか。なにかを言われてはたまらないと、足早にその場を後にした。

 外へ一歩足を踏み出すと、風が優しく吹き抜けた。少し前まで肌寒さを感じていたが、各地で桜の開花宣言される今、ずいぶん暖かくて過ごしやすくなっている。

 そんな爽やかな気分を感じたのは一瞬のこと。
 周囲にさっと視線を走らせ、違和感がないことを確認して小さく息を吐き出す。それからバッグのストラップをぐっと握り、うつむきながら足早に駅に向かった。


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