結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「ねえ、聞いた?」

 翌日になって出社すると、進藤社長の話がそこかしこでささやかれていた。当然だ。目撃者は多数いたのだから。

「まさか、進藤社長が女性にだらしない人だったなんて……ねえ」

「婚約者って、タレントさんなんでしょ? なんて言ったかな……ほら、NAOとかいう」

「あの人、父親のコネで活動しているだけよ。一般人にしては美人だけど、芸能界に入ったら埋もれるでしょ」

 辛らつな物言いになるのは、もしかしたら進藤社長に好意があるからかもしれない。

「それにしても、社長にはがっかりだなあ」

「仕方がないわよ。社長って、地位もあるしあのカッコよさでしょ? 女性の方が放っておかないのよ」

 でも、婚約破棄をされた場で無表情を貫ける冷血漢だよ?と、漏れ聞こえる噂話に心の中で返す。いくら条件がよくても、あれはない。

 婚約破棄の話は、瞬く間に社内中に広がっていく。それは数日経っても収まらず、さらに多くの人が知るところになっていた。
 彼はいずれグループトップの座に就くと見られていたが、そんな人間に会社を任せられないとこぼし人も出始めている。そのうちのひとりは、私の上司である副社長だ。

 噂も批判も、進藤社長の耳にも入っているだろう。
 でも、遠目に見かけた彼は普段となにひとつ変わらない。きりっとした顔をして、風を切るように歩いていた。

「青山さん、ちょっと」

「はい」

 秘書室長に呼ばれて席を立つ。
 この会社に長く勤める室長は、一見穏やかな男性だ。けれど必要となれば厳しいことも言える人で、女性の比率が高いこの職場を上手くまとめ上げている。

「会長が、あなたをお呼びです」

「会長、ですか?」

 さすがに顔は知っている。
 けれど同じビル内にオフィスを構えているとはいえ、グループ全体のトップと直接顔を合わせる機会なんてほぼない。なにかの折に遠目に見かけるか、社内報で目にするくらい。

 そんな人が、私になんの用があるのか。
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