結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 忙しいのなら私だけをタクシーに乗せればいいのにと、ひとりになって愚痴をこぼす。でもそれは不満じゃなくて、彼の時間を無駄にさせたことが心配だったからだ。

 こうして私を送り届けてくれたのは、やっぱり彼の気遣いなのだろう。

「でも、もっと口もとを緩めるとかできないのかな」

 会社を出る際の冬馬さんの様子を思い出す。彼が犠牲にした時間は、狙った効果を得るのに十分だっただろうか。

 若くして社長を務めているから、冬馬さんも気を抜けないのかもしれない。
 本来の彼は、無骨なところもあるけれど優しさも持ち合わせていると私は気づいている。雰囲気が少しでも和らげば、周囲の印象はまたべつのものになるのにと惜しく思う。

 けれど、それは私に関係のない話だと考えを振り払う。

 冬馬さんは彼の信念を貫いるのだ。妻になったとはいえ、それを私がとやかく言う権利はない。もったいないなと思うのは、私の身勝手だ。

 彼の乗ったタクシーはもう見えないというのに、しばらくそのまま車が走り去った方向を見つめていた。


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