結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「その噂話には、気づいていませんでした」

 もちろん必要なときは冬馬さんと会話をしていたし、すれ違えば会釈くらいはした。つまり、ふたりとも結婚前となんら変わらない態度でいた。
 しいていえば、結婚を発表したあの日だけ彼がいつもと違う行動を取っていた。

 でも、それだけではだめだったらしい。

 社会人としての節度は必要だが、私たちは電撃結婚をしたわりにあまりにもよそよそしかったようだ。
 比較的女性の多い職場だし、そういう男女の機微に敏感なのかもしれない。時間を合わせて一緒にランチをとるとか、もう少し交流している様子を見せるべきだったか。

 冬馬さんがこの結婚で得るメリットは、悪評の払拭だ。これでは噂の内容が変わっただけ。

 とりあえず、私たちを取り巻く事情も彼の懸念もわかった。

 でも、〝同行〟ってなんだとチラッと冬馬さんを見る。

 休日に、新婚夫婦がふたりきりで出かける。しかも不仲説を払拭するためにだ。誰に聞いても、それは〝デート〟だと答えるはず。
 私と出かけるのが不本意だとしても、せめて〝付き合う〟くらいのマイルドな表現はできないものか。

 そう考えたが、婚約破棄をされた場でも微塵も動揺せずに不遜な態度を貫いた男だ。彼に甘さを求めるのは無駄というもの。もちろん私も、契約の関係でそれを必要とはしないけれど。

 元婚約者に対しても、一事が万事こんな様子だったのだろう。冬馬さんは、交際や結婚に向いていないのだと思う。

「映画を見て、食事をしてくるくらいですよ?」

「ああ。できるだけ手短で」

 大きな恩がある手前、ムッとしても文句は言えない。

 冬馬さんが動いてくれたおかげで、あれ以来ガラの悪い人たちは一度も現れていないのだから、彼には感謝している。決して借金の金額を私に教えようとはしないが、それなりにまとまった額だったのだろう。それをすべて会長が清算し、冬馬さんがその後の手を打ってくれている。
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