結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「見たい作品のタイトルは?」

 尋ねられるまま答えると、彼は「これでいいか?」とタブレットをこちらに向けてくる。
 どうやらチケットを予約してくれるようで、仮抑えした座席が表示されていた。

 本当はしばらくゆっくりとして、午後から出かけるつもりでいた。
 でも、彼が選んだのは午前中から始まる会だ。さっさと済ませて帰ってきたいという心情が透けて見えるが、妥協も必要。

 食事を済ませると、早速出かける準備をする。今日は冬馬さんが車を出してくれるというから、そろって地下の駐車場へ向かった。

 彼が示したのは、想像した通りの高級車だ。助手席側に回った冬馬さんが、ドアを開けてくれる。その小さな気遣いに、ちょっと感動してしまう。一応、夫婦のお出かけだという認識は彼にもあるらしい。

 といっても、ほとんど会話はない。人の目のない空間だから、わざわざ親しさを演出する必要はないということなのだろう。最初はちょっと気まずかったけれど、静かな空間に次第に慣れていった。

 目的地に着いて、車を降りる。ここでも彼はドアを開けてくれたが、手をつながれることはない。歩く速度は合わせてくれているものの、ただ並んでいるだけ。まさしく〝同行〟という言葉が正しく思えてきた。

 これは不仲説を払拭するアピールになるのか?という疑問を、口に出しはしない。きっと、彼にとっては一緒に出かけたという実績が必要なのだろう。会長や周囲になにかを尋ねられたとき、週末はふたりで映画を見てきたと具体的に話せる事実があれば説得力が増す。

 逆に今のこの様子を目撃されたら、本当に夫婦なのかと疑問視されそうだが。淡白な夫婦だとか、亭主関白なのだと思ってくれることを祈る。

 ほぼ無言のまま映画館に到着し、さっさと座席に座る。ドリンクはいるか、なんて気遣いは皆無だ。私もほしいわけじゃなかったし、必要なら自分で買いに行くからかまわない。
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