結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「これから、会長室へ来てほしいそうです」

 心配そうな室長の表情に、彼も内容は知らされていないのだろうと察する。

「わかりました」

 呼び出しを無視するわけにはいかず、すぐさまエレベーターホールに向かう。
 親会社の入ったフロアに行く機会なんてほぼない。上階行のボタンを押す手が、緊張で震えていた。

 やってきたエレベーターに乗り込む。私以外には誰もおらず、鏡の前に立って身だしなみをチェックした。

 化粧品会社に勤めていることもあり、見た目にはとくに気を使う。
 ダークブラウンのセミロングの髪はひとつにまとめ、野暮ったくならないようにおくれ毛を緩く巻いている。
 柔らかな印象になるよう心がけて、二重の瞼にはいつも暖色を乗せている。今日は先月発売されたばかりの茶系のものを選んだ。赤味が強い唇には、元の色を活かすためにシアーなルージュを使用する。これで、きつすぎずナチュラルに仕上がっていると思う。このルージュは、私が企画部にいた頃に手掛けた商品だ。

 おかしなところはないようだと、鏡から顔を離す。

 その数秒後に、目的のフロアに到着した。
 受付で用件を述べると、すぐに会長室へ案内される。

「し、失礼します」

「いやあ、よく来てくれたね」

 最高潮に緊張しながら入室したところ、明るい口調で出迎えられた。顔を上げると、笑みを浮かべた会長が視界に入る。
 意図のわからない歓迎に、戸惑いを隠せない。

 それにしても、あの冷酷で不遜な進藤社長の父親だとは思えないほどの気さくな雰囲気だ。
 立ち上がった会長は、私にソファーを勧めながら自身もその向かいに座った。

 お茶を運んできた秘書が退出するのを待つ。部屋にふたりきりになると、会長がすぐさま切りだした。
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