結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 私には関係ないことを祈りながら、歩道の端によって様子をうかがう。
 そこに、エントランスから男女が出てきた。ふたりは車の方へ向かっているようだ。

「冬馬さんと……?」

 隣を歩いているのは、誰だろうか。すらりと背の高いスーツ姿の女性で、はっきりとした顔立ちの華やかな美人だ。歳は、彼と同年代くらいだろうか。

 来客の予定は入っていなかった気がするけれど、急に決まった話なのかもしれない。

 さすがの冬馬さんも、社外の人を相手に普段の厳しさは鳴りを潜めている。とくべつ愛想がいいわけではないけれど、私の前では言葉数の少ない彼が、長い会話に応じているのが見て取れた。返している言葉も、単語ではなさそうだ。

 話の内容までは聞こえないものの、意外な様子につい目で追ってしまう。
 女性は積極的な人のようで、冬馬さんに視線を送りながら途切れることなく話しかけている。

「え?」

 魅惑的な笑みを浮かべた彼女が、冬馬さんの腕に触れた。

 フレンドリーな人なのか、それともお互いに気安い仲なのか。見ていると、なんだかモヤモヤする。
 私の常識では、異性に簡単に触れることに違和感を覚える。しかも相手は既婚者なのだから、誤解されない距離感に気をつけるべきだと思う。

 さらに言えば、会社の目の前の、人通りの多い路上でのやりとりだ。誰に見られているかもわからないのだから、細心の注意を払うべき。

 お堅いと言われればそうなのかもしれない。
 でもこの光景が他人の目にどう見えるかを想像すると、おかしいと感じてしまう。変な噂にならなければいいけれど。

 女性の手を、冬馬さんがやんわりと外す。振り払わないところを見ると、関係を悪くしたくない相手なのだろうと思う。
 さらに彼女は、なにかを言いながら再び彼の腕に触れた。そのまま、冬馬さんを意味深な視線で見つめる。

 私の目には、彼女が冬馬さんに甘えているように見える。
 それを冬馬さん自身が察しているかはわからないが、彼はもう一度丁寧な仕草で腕をどけさせた。すると彼女は、少しだけ拗ねたような顔をする。

 表情をころころと変える彼女に対して、冬馬さんの顔には明確な感情が浮かんでいない。そのことに、なんだかほっとした。彼の新たな浮気疑惑が持ち上がったら、私の周囲もうるさくなるだろうから。

 もうしばらく会話を交わした後、冬馬さんは女性を車に乗せて見送り、社内へ引き返していった。
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