結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「青山君とは、どうかね」

「仲良くやっていますよ」

 フロアの内の休憩スペースから聞こえた声に、足を止めて身をひそめる。
 ひとりは冬馬さん。もうひとりの声は、おそらく副社長だろう。

 職場での私は、旧姓で通している。自分の名前が出たからには気になってしまい、聞き耳を立てた。

「前に流れていた噂が、ようやく静かになってきたかと思っていたんだがなあ。はあ……。今度は会社の前で女性に迫られていたというじゃないか」

 先日見かけた冬馬さんと女性とのやりとりは、やはり目撃者がいたらしい。あれから数日経っているが、たまに意味深な視線を向けられていたのはそれが原因かと、頭を抱えたくなる。私にとっては、とんだとばっちりだ。

「くだらない噂ですね。それに振り回されるなど、よほど暇なのでしょう。事実を確かめもせずに身勝手に振る舞う人間など、信用できない。そうですよね? 副社長」

 丁寧な言葉遣いのはずなのに、その慇懃な様子がなんだか怖い。
 まさか、あなたがそのような振る舞いをするわけがないですよね?と、暗に釘をさすように聞き返したのだろう。自分は潔白であるという主張にもなっている。

 本当のところはわからないが、彼がそういうのなら私は信じるだけ。そもそも、冬馬さんが私からの信頼を必要としているのかはわからないけれど。

「あ、ああ。そうだな」

 どちらかというと、副社長は噂をネタにこの場で彼にネチネチ言うつもりだったに違ない。真偽の確認もしないまま、冬馬さんを悪だと決めつけて。
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