結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 副社長は少し癖のある人物だ。冬馬さんの悪評が流れたときは真っ先に『そんないい加減な人間が社長を務めていていいのか』と、声をあげた人でもある。

 彼の場合、正義感から言っているだけではないから厄介だ。自分より若くして社長に就任した冬馬さんに対するやっかみも大きいと、日ごろの様子から感じている。対外的に顔が広く様々なコネクションを持った人で、それが会社にとって有利につながった機会も多い。

 ただ、彼は野心が強すぎる。気に入らない人間を蹴落とそうするあの人の姿勢は、仲間内に不和を生み出しかねない。

「とにかく、君も妻帯者だろ? もう少しちゃんとしてもらわないと困るな。これ以上のスキャンダラスなことは――」

「問題ないですよ。私にやましいところはないですし、妻との関係は良好なので。週末は彼女の趣味に付き合って、ふたりで出かけることが楽しくて。ご存じでしょうが、彼女はかなり多趣味なんです」

 楽しい?と首をひねりたくなる。未だに〝デート〟ではなく〝同行〟状態だ。

 彼にとっては義務のようなもので、時間の無駄だと思っていそう。でも、一緒に過ごした時間がここで説得力を持たせているのだから狙った通りだ。

 それはさておき、冬馬さんは自分付きの秘書のことなら把握しているだろ?と、副社長をやんわりと非難している。

 実際のところ、副社長とは私的な会話はほぼしない。雑談の中で部下が疲弊していないかを探ったり、信頼関係を深めたりという素振りはいっさいない。それどころか自分の足を引っぱるなというようなことを、多少マイルドな言葉で釘をさしてくるくらいだ。

「……新婚だからと、浮かれすぎていても困るがな」

 冬馬さんから思ったような反応が得られず、恨みがましいような口調になっている。どう聞いても負け惜しみだ。

「気をつけますよ」

 まったく浮かれてなんかいなくせに、苦笑まじりに冬馬さんが返す。

 そろそろふたりの会話も終わりそうで、慌ててこの場を離れる。

 その後、オフィス内で見かけた冬馬さんは相変わらず厳しい顔をしていた。浮かれているなんてほど遠く、会話をしていたのは本当に彼だったかと疑いたくなるほどだ。
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