結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「疲れたか?」

 彼の気遣いに、「大丈夫です」と笑みを返した。

「少し休憩しよう」

 それでも疲労は隠しきれていなかったのか、彼にエスコートされながら食事の並べられたスペースへ連れられて行った。
 そこで冬馬さんにグラスを手渡されて、素直に受け取る。

 合間で少しはドリンクを飲んでいたものの、かなり緊張していたらしくて喉はカラカラだ。高級なワインだったと思うけれど、すぐに飲み干してしまった。

 空になったグラスを受け取った冬馬さんは、それから「少しほつれている」と私の髪を耳にかけてきた。突然のことに体がピキリと固まる。頬がじわじわと熱くなり、隠すようにうつむいた。

「あと少し、大丈夫そうか?」

 動揺する私とは対照的に、冬馬さんはいつも通り。
 冬馬さんには、これくらいの触れ合いなど意識するまでもないらしい。それが悔しいし、この人にとっては慣れた振る舞いなのだと思うと、笑みを浮かべ続けるのも苦しくなる。

「大丈夫です」

 半ば意地でそう答えて、差し出された彼の腕に手を添えた。

 それからも、たくさんの人に声をかけられた。
 会が始まった直後の、お互いを探るようなぎこちなさはもう会場の中にはない。アルコールが入っている人も増え、掛け合う言葉も多少砕けているように思う。といっても、ここは仕事の場だ。羽目をはずすような人はもちろんいない。

「いいわねえ。私もそろそろ結婚したい」

 出席者の何人かは、本気で私たちの結婚をうらやんでいた。もしかすると夫が冬馬さんであることを、かもしれない。

 年配の方からは「家庭を持ってこそ、仕事にますます精が出るというものだよ」と何度か諭された。

 それらに笑みを返しながら、心の中は荒んでいく。
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