結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「結婚したって、いいことばかりじゃないのに」

 借金を重ねる父に、『あの人とはもう無理よ』と取り乱す母。私はかろうじて不自由のない生活をさせてもらっていたけれど、あの家で穏やかにいられる時間は少なかった。

 友達の数は多くないけれど、恵まれていたと思う。うちが機能不全に陥っている家庭だと察していただろうに、今でも付き合ってくれる子もいる。

 大人になってからの私は正社員で働けているし、おひとり様で楽しく暮らす術も持っている。
 それならもう、ずっとひとりでいいじゃないかと決め込んでいた。家庭を築くことを諦めたのではなくて、私の方から手放したのだと胸を張って。

 けれど……と、もう一度、さっきの女性たちに視線を向ける。

〝うらやましい〟と繰り返されて、私はこんなにも心を乱されている。まるで〝おひとり様でいいんだよね?〟と確信を得たいために、これまでのことを思い出したりして。

 なんとも言えない、ぐちゃぐちゃとした感情が込み上げてくる。体が小さく震え、瞼をぎゅっと閉じた。

 私を包み込むように背後から回された冬馬さんの腕の温もりが、よりリアルになる。その優しさに、ますます感情が乱されていく。

「結婚なんて……」

「俺との結婚も、瑞希にとっては最悪だったのか?」

 思考はぼんやりとして、気持ちが緩む。

「冬馬さんとは、契約だから……」

 いいも悪いもないと続けるつもりが、明確な言葉にならない。呂律も怪しくなってきたようだ。

「大丈夫か?」

 背中を丸めた私の顔を、冬馬さんが身を屈めて覗き込む。
 顔を隠す前に視線が合ってしまい、瞳が潤んでいたことはバレてしまったかもしれない。

「やっぱり飲み過ぎだ。そろそろ帰るぞ」

 まだ仕事は終わっていないのではと、首を左右に振る。
 ここで待っているから、せめて冬馬さんだけでも挨拶をしてきてほしい。私のことは体調が悪いとか、なんとでも言い訳はできるだろうから。

 そうなんとか伝えると、冬馬さんは顔をしかめた。
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