結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 確認を終えて顔を上げると、目が合った冬馬さんはニヤリと意味ありげな笑みを浮かべる。彼の表情がこんなにわかりやすく変化するなんて、初めて目にした。

「昨夜のことは、覚えているか?」

 安堵したのも束の間。やっぱりなにかあったのかと、すぐさまうろたえた。

「その、仕事の場だというのに、酔いつぶれてしまってごめんなさい」

 彼は『飲みすぎじゃないか?』『大丈夫か?』と、ずっと気にかけてくれていたというのに。

 うな垂れる私を、冬馬さんは楽しそうに眺めている。
 表情を変えることなんてほとんどない不遜で冷淡な彼が、さっきから感情豊かすぎる。

 まさか一線を越えた男女のならではなのかと、思わず胸もとを抑えると、ついに冬馬さんは声をあげて笑いだした。

「あ、あの」

 お願いだから、状況を教えてほしい。

「なにも、なかったですよね?」

「さあな」

「さあなって……」

 曖昧な返事に、動揺して視線が揺らぐ。

「なにかあったのなら、瑞希は責任を取ってくれるのか?」

「責任……」

 試すような口調でそう言った冬馬さんを、呆然と見つめる。
 飲みすぎた私のせいで、職務上なにかまずい事態になっている?

 それとも、この場合の責任って男女のそういう……。

 私が混乱している間に、彼が近づいてくる。
 ベッドの脇で立ち止まり、身を屈めて至近距離から顔を覗き込んできた。思わずのけ反るも、すぐにヘッドボードに阻まれて距離が取れない。

 唇が触れてしまいそうなところまで顔を近づけた冬馬さんは、うろたえる私を前にくすりと笑った。

「冗談だ」

「は? え?」

 それだけ言うと体を起こしてくれたが、〝冗談〟なんてこの人とは対極にある言葉で違和感しかない。

「朝食を頼んでおくから、シャワーを浴びてくるといい。着るものは適当に用意しておいた」

 手を差し出されて、反射的に掴んでしまう。ぎゅっと握り込まれた時点で図々しすぎたと気づいたが、彼が放してくれない。
 そのまま冬馬さんの力を借りてベッドから起き出す。

 そそくさと浴室に逃げ込み、熱めのお湯を浴びる。昨夜からの恥ずかしい記憶も、きれいサッパリ流れてほしいとせつに願いながら。
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