結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 平年よりも早めに梅雨が明けた関東は、例年よりも早く夏本番を迎えている。

 マンションを出た途端に汗がジワリと滲み、痛いほどの日差しが肌を刺激する。この中を歩くのかと思うとうんざりするが、用意した日傘の柄をぐっと握ると覚悟を決めて足を踏み出した。
 乗り込んだ電車はいつも通りぎゅうぎゅう詰めで、吊革につかまりながらため息を吐き出す。

 それにしても、ここのところ冬馬さんの様子がおかしい。

 といっても、会社で見かける彼は相変わらず感情を悟らせない厳しい表情を貫いている。それに、ワーカホリック気味なのも変わらない。

 けれど自宅で顔を合わせる冬馬さんは、なにかが違う。
 ダイニングで顔を合わせたときに『おはよう』といつも通り返してくれるのだけれど、無表情が常だった彼が笑みを浮かべるようになった。

 さらに私が作った朝食にお礼を言うだけでなく、『美味しかった』なんて添えてくれる。
 どういう風の吹き回しかと戸惑う私に、彼はさらに『明日も楽しみにしている』と加えた。

 パーティーの場で夫婦らしさを演じ、彼自身がメリットを感じられたということなのだろうか。だからこれまで以上に良好な関係をアピールしようと考えているのかもしれない。

 私自身、冬馬さんとは契約の関係だと割り切っていた。

 それなのに私を介抱してくれた彼の優しさに触れたせいで、妙に意識してしまう。あの夜、彼が私の頭をなでながら優しく声をかけてくれていたことは覚えている。

「はあ……」

 電車を降りて再び歩きだす。
 冬馬さんに言動に、いろいろと勘違いしそうになる。あの夜から、彼に振り回されてばかりだ。
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