結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 時間になり、彼の運転でいつもの映画館へ向かう。

 これから見るのは、ホラー映画。〝デート〟というには相応しくないジャンルだとわかっている。
 でも、もうひとつ気になっていたのは恋愛もので、さすがに冬馬さんとふたりで見る勇気はない。絶対に気まずくなるのがわかっていたからの選択だ。

「瑞希はホラーも平気なのか?」

「そこまで平気じゃないですし、さすがにグロテスクなものは無理ですよ。でもこれから見る作品は都市伝説を扱ったもので、たぶん直接的な恐怖映像は出てこないと思うんですよね。なんとなく匂わせる感じだと」

 原作は、二年ほど前に話題になった小説だ。具体物ではない恐怖の対象を、映像でどう表現するのかも気になっている。

「へえ。それで恐怖心を煽れるのか、楽しみだな」

「え、ええ」

 楽しみ?と、思わず隣を見る。

 彼とは何度か一緒に映画を見たが、興味を持っているようには思えなかった。単に〝新婚夫婦のデート〟の実績作りのために同行していただけ。チケットの予約こそしてくれたが、作品についてあれこれ聞かれたことは一度もない。

 これまで関心がなかったのは、選んだジャンルのせい?
 まさか冬馬さんはホラー好きかと、再び隣をチラッと見る。
 その感情の読めない端正の横顔はこの後の時間を心待ちにしているようには見えず、絶対に違うなと結論づけた。

 腑に落ちないけれど、彼の貴重な時間を拘束するのだから、興味のあるものの方がいいに決まっている。本心はどうであれ、彼が〝楽しみだ〟と言っているのならそれでいい。

 車を降りて、映画館の入っているフロアにやってきた。休日はいつも賑わい、フードコーナーには列ができている。

「そういえば、鑑賞中に口にするものはいらないのか?」

「へ?」

 これまで聞かれたことのなかった質問をされて、驚きすぎて気の抜けた声が出る。
 隣に立つ彼の視線は、フードメニューに向けられていた。

「この後、お茶をしたり食事をしたりっていう予定をいれているときは、とくになにも口にしないですけど……? 冬馬さんはいりますか?」

「いや、俺も今はいらない」

 なんだったのかと、首をひねりながら入場口へ向かう彼に続く。
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