結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 席に着いてから隣が妙に気になってしまったものの、上映が始まるとなんとか集中できた。

 あまり怖くないかもしれないと思っていたけれど、大間違いだった。俳優さんの目の演技が表情豊かで、見えない〝なにか〟にどんどん追い詰められていく様子がリアルに感じられた。

 見ている自分まで切羽詰まっていき、息をのみビクッと体を揺らす。
 その瞬間。いつの間にかぎゅっと握りしめていた手に、優しい温もりが覆いかぶさる。

 冬馬さんの手だ。

 こっそり覗き見た彼は、いっさいこちらを向かない。視線はスクリーンに注がれたままだ。
 私の反応に、心配してくれたのかな?
 彼とは、必要に応じて腕を組んだり腰に手を添えられたりしたことはある。でも普段は接触なんてなくて、なんだかドキドキしてくる。

 以前はイメージ通り少し冷たい手だと思ったのに、私より少し高い体温がじんわりと伝わってくる。映画の内容に緊張して、自分の指先は冷たくなっていたようだ。
 じわじわと頬が熱くなってくる。きっと真っ赤になっているに違いなくて、ここが薄暗い映画館であることにほっとした。
 なんとか続きを見ていたものの、どうしても重ねられた手に意識が向いてしまう。

 私が落ち着いた頃を見計らったのか、しばらくして解放されたときは心底ほっとした。

 最後まで見終えて、小さく息を吐き出す。それから、強張っていた体をゆっくりとほぐしていく。
 私がこうしている間にさっさと立ち上がってしまう冬馬さんだが、今日はそんな様子はない。

「えっと、出ます?」

「もういいのか?」

 すでに上映は終わっているし、立ち上がっている人もいる。
 もしかして待っていてくれたのかと、彼らしくない様子に首をひねる。

「ほら、まだ残っている人もいるだろ? 余韻を楽しんでいるのか、現実世界に戻るまでに時間が必要なのか。正直俺には理解できない感覚だが、瑞希には通じるものがあるんじゃないのか?」

 まさかそんなふうに聞かれるとは思わず、すぐに反応できないまま瞬きを繰り返す。

「いつも名残惜しそうにしていただろ?」

 そこに気づいているとは思わなかった。彼はいつだって、振り返ることなく出て行ってしまうから。

「急いでいるわけでもないし、ゆっくりすればいい」

「は、はい」

 遠慮がちに体を伸ばす。それからそそくさと立ち上がると、冬馬さんの後ろについて映画館を後にした。
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