結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 彼はいつものシュッとした感じとは違い、なにかおもしろいものを見ているような目をしている。

「そんなに気に入ったのか?」

 ふたりで出かけて、こんなふうに声をかけられたことはない。
 普段と違いすぎる彼の様子に呆けてしまい、首をかしげる。それからハッとして、姿勢を正した。

「想像していた以上に、すごく美味しいです」

「今はプライベートな時間だ。そんなに畏まらなくていい。だが、気に入ったのならよかったな」

 映画館でのことといい、どうにも冬馬さんの様子がおかしい。

 けれど、たしかに夫婦のデートという体で過ごしているのだ。過剰にしゃきっとする必要はないと、肩の力を抜いた。

「冬馬さんの頼んだチーズケーキも人気なんですよ。甘いものが苦手な人でも食べやすいって」

「そうか」

 まだひと口も食べていなかったようで、フォークを持ちひと口分を取る。
 それからなにを考えたのか、フォークごと私の口もとへ差し出してきた。

「え?」

 突然のことに、思考がフリーズする。

 さらに冬馬さんは、「ほら」とフォークを軽く振ってみせた。

「こっちも気になるんだろ?」

 いや、ちょっと待ってほしい。
 私、そんなもの欲しそうな顔をしていただろうか。

 これはもしかして恋人の定番「あーん」かと、答えにたどり着いて彼の目を見る。
 わずかに目もとを緩めた冬馬さんは、わかったか?とでもいうようにくすりと笑う。私の唇にケーキを触れさせてくるから、反射的に口を開いてしまった。

「お、美味しいです」

 もらったからにはとそう返したが、正直まだ混乱したまま。

「よかったな」

 え? これ、私からも差し出すべき?
 もう口をつけてしまったし……と迷っている間に、彼は自分のチーズケーキを食べ始めている。どういうことかと尋ねるタイミングは、完全に逃してしまった。
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