結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「なあ、瑞希」

 徐々に下がりかけていた視線を、冬馬さんに向ける。

「結婚なんて、いいことばかりじゃないのにとはどういう意味だ? 今の瑞希の顔は、そう言っていたときと同じだ」

 ドクリと、鼓動が嫌な音を立てる。

「こうして俺と出かけることは、瑞希にとって迷惑か?」

「そんなことない……です」

 食い気味に返し、ハッとして身を引く。

「よかった。ならなぜ、そんな辛そうな顔をするんだ?」

「それは……」

「俺と瑞希は、まだ知り合ってそれほど時間が経っていない。俺のすべてを信頼しろと言われても、無理だとわかっている。だが、縁あって夫婦になったんだ。瑞希の背負う一部でも理解したいと思っている」

 絆されそうになるから、優しいことは言わないでほしい。前みたいに、お前のことなど興味ないとでもいう態度を貫いたままでいてくれたらいいのに。

 そう恨めしく思う半面、彼が自分を見てくれていたことに温かな気持ちにもなる。

 辛く、重苦しい幼少期の光景がよみがえってくる。思わず眉間にしわを寄せ、テーブルの下で手をきつく握りしめた。
 どうにも吐き出してしまいたい衝動に駆られるのは、冬馬さんが私を心配そうに見てくるから。
 迷いながら、重い口をゆっくりと開いた。

「冬馬さんも知っての通り、私の父親は借金を繰り返す人です」

 身内の恥を晒すことは抵抗があるが、彼にはとっくに知られている。冬馬さんの反応を確かめないまま、淡々とした口調を心がけて続ける。

「子どもながらに、嫌な思いをたくさんしてきました。だから……」

 詳しいことまでは、さすがに話す勇気がない。心配をしてくれる彼には悪いが、ここまでだ。

「結婚なんて幸せなことばかりじゃないって。私には、憧れなんて抱けないんです」

 この答えで、納得してくれただろうか。

 チラッと見た冬馬さんは、変わらず私を心配そうに見つめていた。




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