結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 それからというもの、連絡もなく笹島奈央が押しかけてくるようになった。

『冬馬さん! 会いたかった』

 会社を出たところで待ち構えていた彼女が、遠慮もなく腕を絡めてくる。もちろんすぐに外させたが、『意地悪』と頬を膨らませる。

『あなたとの婚約は受け入れられない』

『そんなこと言わないでよ。ほら、冬馬さん。遊びに行こう』

 繰り返し断り続けているが、自分に都合の悪いことは耳に入らないらしい。

『迷惑だ』

『婚約者だなんて堅苦しいことはやめて、そうね。まずはお試しに付き合ってみるって感じでいいじゃない。絶対に、冬馬さんを楽しませてあげるから』

 濃密な触れ合いを連想させるような意味深な視線を向けられても、気持ち悪いとしか思わない。

『そもそも、婚約を承諾した覚えはない』

『もう! 進藤のおじ様は認めているのよ』

 彼女の中では、すべてが自分のいいように変換されるらしい。

『すみませんが、社長は次の予定がありますので』

 控えていた秘書がたまらず口を挟むと、あからさまに睨みつける。

『こっちは仕事中だ。帰ってくれ』

 これ以上騒ぎが大きくなるのは面倒で、待たせていたタクシーにさっさと乗り込んだ。

 笹島奈央は、俺の婚約者ではない。居合わせた秘書にはきちんと訂正しておいたが、その後も何度か押しかけてきた彼女が、周囲を勘違いさせるような言動を繰り返したせいで無意味に終わる。

 そのうち飽きるだろうと、毎回振り払っていた。そうした裏で念のためにと調査を依頼してみると、俺以外にも三人の異性の〝お友達〟が存在し、奔放な生活を送っていると判明した。

 会社同士のつながりがある以上、相手が納得する形で断るのがベスト。手に入れた証拠を突きつけるのは、最後の手段だ。
< 81 / 145 >

この作品をシェア

pagetop