結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「か、会社を去るように、ということでしょうか」

 私の問いに、会長はなにも言わない。
 肯定も否定もされないが、その通りということなのだろう。

「そこでだ。私から提案がある」

〝提案〟と言いつつ、断れない話なのだろうと察して手を握りしめる。

「君が冬馬との結婚を受け入れてくれるのなら、借金の方は私が解決しよう」

 予想通りの内容に、唇を噛みしめた。

 正確な額はわからないが、法外な利子を吹っかけてきそうな相手だ。なんの力もない私が対処すれば、いつまでも続く借金地獄が待っているかもしれない。

 たとえ転職に成功しても、ああいう人たちはどこまでも追いかけてくるだろう。きっと同じことの繰り返しになるだけだ。
 そう考えてみると、私が選べる道はひとつしかない。

「どうだろうか?」

 口調を和らげた会長だが、その目は厳しいまま。今この場で決断せよと、暗に催促してくる。

 私自身が起こした問題ではない。それなのに、父と血のつながりがあるというだけでこんな事態に巻き込まれて悔しくてたまらない。

 そういった私の事情など、会長にとってみれば関係のない話だ。一社員の問題より、会社を守ることを優先するのも当然。

 グループのトップにこう突きつけられては、折れるしかなかった。

「承知、しました」

 理不尽さや無念さなど、複雑に滲んだ声音になる。

 私が受け入れた途端に、会長が満足そうな笑みを浮かべた。

「やあ、うれしいよ。冬馬は誤解されやすいが、優しいところもあるし真面目な男だ。ぜひ、いい関係をつくっていってほしい」

 一応の決着がついたタイミングで、ノックの音が響く。

「ああ、噂をすれば冬馬だな。入れ」

 開いた扉の向こうには、会長が言った通り進藤社長が立っていた。

 私と目が合い、社長があからさまに顔をしかめた。見るからに不満そうだ。
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