結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「できた!」

 ようやく企画案をまとめ終え、気分が高揚する。思わず大きめの声をあげてしまった。

 いつの間にか正面に座っていた冬馬さんが、「おっ」と顔を上げてこちらを見る。その目の前には、私が多めに作って残しておいた夕飯が並んでいた。必要だったらどうぞと、事前に知らせておいてある。

「企画案、完成しました」

 ここのところ彼の気遣いに感謝しながらも、すっかり甘えきっていた。
 今の自分に余裕がないのは事実。代わりにというわけではないが、ついでだからと夕食を多めに作り、気楽な調子で彼に勧めている。

「頑張ったな。審査を楽しみにしている」

「はい!」

 社長である冬馬さんは、このコンペの最終責任だ。
 公平さを保つために提出された企画案はすべて名前を伏せ、番号を振って審査される。

 私たちのように社内結婚をしていると、事前に企画案を見せているかもしれないという疑念はどうしても出るだろう。ただそこは、普段の冬馬さんの姿勢がものをいう。

 社長である冬馬さんは、自他ともに厳しくて不正や妥協を許さない人。

 彼の射抜くような鋭い視線を、怖いと感じる人もいるだろう。
 けれど同時に、他人にアドバイスをすることを厭わない、面倒見のいい一面も持ち合わせている。一般社員ではなかなか社長と対面する機会は少ないが、かかわりのある人の多くは彼に厚い信頼を寄せている。
 そういう人たちが、きっと味方になってくれる。

 思い返してみれば、室長をはじめとする冬馬さんに信頼を寄せる人たちは、悪評が流れた際も『くだらない』と鵜呑みにせず聞き流していた。

 私は秘書課という冬馬さんに比較的近い位置にいたにもかかわらず、相手を知ろうともしないであの場の雰囲気だけで彼を悪だと決めつけていた。それが、今さらながらに申し訳ないと思う。

 冬馬さんをチラッと盗み見る。

 彼のことはこんな男はありえないと思っていたはずなのに、気づけばかつてないほど心を許してしまっている。
< 92 / 145 >

この作品をシェア

pagetop