転生したらひとりぼっちだった私、最強国の冷徹大公に拾われる~不愛想な最強保護者のもとで、稀代の才能が花開きました~
でも、実物を見るのは初めてである。私は近づいて踵を浮かせ、スモモの実に手を伸ばした。すると、テトラが実を捥いで渡してくれた。
「ほいよ」
「ありがとうございます。とても美味しそう。いつもこんなに実るんですか?」
笑顔で見上げたテトラの顔には、どこか驚きが混じっている。なにをそんなに驚いているのだろうと、私は首を傾げた。
「テトラさん?」
「ん? ああ、いや……この辺りの木は日照不足で特別実りが少ないんだ。わしが一週間前に来た時には、実なんてひとつかふたつだったんだが……ごらん、今はほら、鈴なりだろう?」
テトラの指先に視線を向ける。スモモは見渡す限りたわわに実り、美しい赤紫の色を惜しみなく晒け出している。これで、実りが悪いなんて言われてもにわかには信じられない。
でも、テトラの表情からは冗談を言っているようには見えなかった。
「まあ、いいか。豊作なのは悪いことじゃない」
「はい、そうですね。この果物を使ってデザートなんかも作れそうですし」
「ああ。おっと、言い忘れていた」
テトラは急に真剣な顔つきになり、続けて言った。
「赤紫の実を使うのは構わないが、向こうの緑の実を使うのはよせよ。あれは『死神の実』と呼ばれていて、そのまま食ったら腹痛や吐き気やめまいがして大変なことになる。体調次第では命も落としかねない。竜たちだって寝込むくらいなんだ。白く可愛い花が咲いて芳香も素晴らしいが、毒なんだ」
「えっ!」
驚いて緑の実に目を向けた。それもスモモと同じく鈴なりに実っている。食べたら寝込むような実が、普通に成っているなんて恐ろしいわ。
あれ、でも、あの実、どこかで見たことがあるような、ないような?
思い出そうとして目を凝らすが、帰るぞ、と急かすテトラに促され考えを止める。まあ、そのうち思い出すかもしれないから、放っておいてもいいわよね。
夕食時になり、小竜たちの食事場に肉を焼いて持参する。小竜たちは待ってました、とばかりに群がって最初に肉を食す。嫌われていた肉が、今では大人気の食べ物になったようだ。
その後、またオリオンを訪ねた。今度はカブのスープと茹でた卵を持ってきたけれど、食欲はあるかしら?
緊張しながら到着し、オリオンの部屋に向かうと、そこにシオンはいなかった。成竜の食事場のほうへ行っているのだろうかと考えていると、横になっていたオリオンが体を起こした。
「ごめんなさい、起こしてしまった?」
『ううん。起きてた』
「お腹の調子はどう? なにか食べられそう?」
『……あ、の……ね』
オリオンは言いづらそうに目を泳がせている。どうしたのだろう。もしかして、食事を作ってくるの、迷惑だった? 余計なおせっかいだったのかも。
と思ったけれど、オリオンから出た言葉は別のものだった。
『ごはん、ありがと……』
「えっ! 食べてくれたの?」
『うん。お腹が痛くなくなったから食べたんだ』
「それで……どうだった? 食べてから腹痛は起こった?」
『ううん! 全然痛くないよ! なにを食べてもすぐにお腹が痛くなるんだけど、ネリーの作ったものは大丈夫みたい』
ぱあっと顔を輝かせたオリオンからは喜びが溢れている。食べられない苦しみ、お腹の痛み、体の不調。彼はずっと病に苦しめられていた。健康な人は、ほんの少しでも美味しく食事ができることが至上の喜びだと気づかない。けれど、私にはわかる。
「ああ、よかった。オリオンは他の竜より消化器官……お腹の具合が繊細なのよ。だから、食べ物を柔らかく工夫したら、きっと腹痛もなくなると思う……って、これは私の勝手な考えだけど」
『いや、ネリーは正しいと思う……って、これは僕の勝手な考えだけど』
真面目な顔をしてオリオンが返す。一瞬真顔になった私も、彼の粋な返しを理解して笑顔を浮かべた。苦しみに揺れていたドラゴンアイは、きらきらと輝いて生命力に溢れていた。
私は持ってきた食事をオリオンに差し出した。彼は両手でカブのスープを受け取るとゴクッと勢いよく飲み干し、目尻を下げながら大きく息を吐いた。
「ほいよ」
「ありがとうございます。とても美味しそう。いつもこんなに実るんですか?」
笑顔で見上げたテトラの顔には、どこか驚きが混じっている。なにをそんなに驚いているのだろうと、私は首を傾げた。
「テトラさん?」
「ん? ああ、いや……この辺りの木は日照不足で特別実りが少ないんだ。わしが一週間前に来た時には、実なんてひとつかふたつだったんだが……ごらん、今はほら、鈴なりだろう?」
テトラの指先に視線を向ける。スモモは見渡す限りたわわに実り、美しい赤紫の色を惜しみなく晒け出している。これで、実りが悪いなんて言われてもにわかには信じられない。
でも、テトラの表情からは冗談を言っているようには見えなかった。
「まあ、いいか。豊作なのは悪いことじゃない」
「はい、そうですね。この果物を使ってデザートなんかも作れそうですし」
「ああ。おっと、言い忘れていた」
テトラは急に真剣な顔つきになり、続けて言った。
「赤紫の実を使うのは構わないが、向こうの緑の実を使うのはよせよ。あれは『死神の実』と呼ばれていて、そのまま食ったら腹痛や吐き気やめまいがして大変なことになる。体調次第では命も落としかねない。竜たちだって寝込むくらいなんだ。白く可愛い花が咲いて芳香も素晴らしいが、毒なんだ」
「えっ!」
驚いて緑の実に目を向けた。それもスモモと同じく鈴なりに実っている。食べたら寝込むような実が、普通に成っているなんて恐ろしいわ。
あれ、でも、あの実、どこかで見たことがあるような、ないような?
思い出そうとして目を凝らすが、帰るぞ、と急かすテトラに促され考えを止める。まあ、そのうち思い出すかもしれないから、放っておいてもいいわよね。
夕食時になり、小竜たちの食事場に肉を焼いて持参する。小竜たちは待ってました、とばかりに群がって最初に肉を食す。嫌われていた肉が、今では大人気の食べ物になったようだ。
その後、またオリオンを訪ねた。今度はカブのスープと茹でた卵を持ってきたけれど、食欲はあるかしら?
緊張しながら到着し、オリオンの部屋に向かうと、そこにシオンはいなかった。成竜の食事場のほうへ行っているのだろうかと考えていると、横になっていたオリオンが体を起こした。
「ごめんなさい、起こしてしまった?」
『ううん。起きてた』
「お腹の調子はどう? なにか食べられそう?」
『……あ、の……ね』
オリオンは言いづらそうに目を泳がせている。どうしたのだろう。もしかして、食事を作ってくるの、迷惑だった? 余計なおせっかいだったのかも。
と思ったけれど、オリオンから出た言葉は別のものだった。
『ごはん、ありがと……』
「えっ! 食べてくれたの?」
『うん。お腹が痛くなくなったから食べたんだ』
「それで……どうだった? 食べてから腹痛は起こった?」
『ううん! 全然痛くないよ! なにを食べてもすぐにお腹が痛くなるんだけど、ネリーの作ったものは大丈夫みたい』
ぱあっと顔を輝かせたオリオンからは喜びが溢れている。食べられない苦しみ、お腹の痛み、体の不調。彼はずっと病に苦しめられていた。健康な人は、ほんの少しでも美味しく食事ができることが至上の喜びだと気づかない。けれど、私にはわかる。
「ああ、よかった。オリオンは他の竜より消化器官……お腹の具合が繊細なのよ。だから、食べ物を柔らかく工夫したら、きっと腹痛もなくなると思う……って、これは私の勝手な考えだけど」
『いや、ネリーは正しいと思う……って、これは僕の勝手な考えだけど』
真面目な顔をしてオリオンが返す。一瞬真顔になった私も、彼の粋な返しを理解して笑顔を浮かべた。苦しみに揺れていたドラゴンアイは、きらきらと輝いて生命力に溢れていた。
私は持ってきた食事をオリオンに差し出した。彼は両手でカブのスープを受け取るとゴクッと勢いよく飲み干し、目尻を下げながら大きく息を吐いた。


