【改稿版】彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
『あの、このあとは約束があるんです』

 嘘だったが言うしかない。

『どこで?約束の時間まで僕と一緒にいようよ。ね?』

 すると後ろから日本語が聞こえた。

「遅くなってごめん。日本料理店を予約してある。時間がないから行こう」

「え?」

「ほら、急いで……」

 黒髪の背の高い男性だった。日本語だったし、おそらく日本人だろう。

 ストライプの襟付きのシャツにジーンズという軽装だった。このツアーに参加していたのかもしれない。
 
 彼の顔よりも、された目くばせに既視感があった。

 私を助けてくれたんだとピンと来た。すぐに彼を見て微笑みながら答えた。

「はい、行きましょう」

 彼は私の背中をそっと押してその場を離れた。

「あの……ありがとうございました」

「いや、君、ちょっと無防備だったからね。お役に立てて良かった」

 外の通りに出てから、立ち止まると彼に向って頭を下げた。彼と顔を見合わせる。

「「……あ!」」

 あの既視感は間違いなかった。

「君、もしかして……日本のスワンホテルでセミナーの時に会ったよね?」

 本部長にセクハラされたとき助けてくれた人だった。

 ホテルのロビーでは顔を正面から見てなかったので気づかなかったが、横顔に見覚えがある。

 鼻筋が通ったイケメン。そして怜悧な一重の目。忘れもしない、あのときも今みたいに目くばせをして、私をその場から逃がしてくれた。

「そうです!あの時は助けて頂いて本当にありがとうございました。あの時の女性の上司の方はお元気ですか?よろしくお伝えください」

「は?女性の上司?」

< 11 / 192 >

この作品をシェア

pagetop