【改稿版】彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 学生かと思ったらそうじゃなかった。三十代くらいの眼鏡をかけたその男性は、私を上から下まで眺めると、嫌な笑みを浮かべて話し出した。

「完全予備校の美人講師で有名な蔵原先生ですよね。うわあ、近くで見ると本当にお綺麗ですね。ちょっと聞きたいことがあるのでお話してもいいですか?」

「……あの、すみませんが、急いでいるので失礼します」

 走って逃げようとしたら、腕を掴まれた。

「きゃあ、やめてください」

「何、逃げてるんだよ。予備校のSNSで有名になってるの知らないの?先生、いい匂いだな」

「……やめて、お願い」

 冷汗が背中を流れた。叫びたかったのに、本当に怖くて声も出なかった。

 だが、私より先に目の前の男性が声を上げた。

「いてえ、何すんだよ!」

 私の腕をつかんでいた手が急に離れた。気づくと男性の手がひねりあげられている。

 そこには長身の男性の背中が見えた。暗がりでよく見えないが、どこかで見たような背中だった。

「彼女は嫌がっているだろう、警察に突き出されたいのか?」

 声を聞いて確信した。玲さんだ!

「玲さん。どうしてここに……」

 振り向いた彼の顔は昔より明らかに面痩せていた。いつもきちんとセットされていた前髪が乱れている。

 そして優しかった一重のあの目が、暗がりで底光りしている。怖い。こんな玲さんは初めて見た。

「お前、横から来てなんなんだよ。俺が先に話していたんだぞ」

「彼女を待ち伏せしていただろう」

「お前だって待ち伏せしていただろう。気づいていたんだぞ、あっちの車へいたくせに……」

 玲さんは私を背に庇いながらその男性に向かって言った。

「僕は彼女の婚約者だ。これ以上つきまとうようなら警察に連絡する」

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