【改稿版】彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「まま、のっていいの?」

 乃蒼の瞳が期待で揺れている。

「うん。今日は乃蒼が乗っていいのよ」

「わあい!」

 乃蒼はその場で飛び跳ねて喜んでいる。

 玲さんの車にはチャイルドシートが準備されていた。

 今まで、乃蒼は佐田君の車に乗りたがったが、乗せてもらえなかった。チャイルドシートはひとり分だったからだ。

 我慢させてきたことで、乃蒼の喜びはひとしおだった。玲さんはここでまた乃蒼の心の鍵を手に入れたようだった。

 彼が今日を最後に急に来なくなれば、乃蒼は相当ショックだろう。この先が本当に心配になった。

 玲さんは乃蒼を抱き上げて、チャイルドシートに乗せてくれた。乃蒼は満面の笑みだ。

 昼になって海の見えるレストランで食事をした。そのあと、乃蒼を砂浜のある海岸まで連れて行った。

 遊ばせる約束をしていたらしい。大騒ぎをしながら貝殻を拾い、準備してきた砂場のグッズで遊びだした。

「明日が私達の最後の日ですね」

「それまでは思い切り乃蒼の親友として遊んでやると決めているんだ。夜に詳しく話すよ」

 玲さんはそう言うと、自分もスコップを持って乃蒼のところに行った。乃蒼が歓声を上げている。いつのまにか一緒に砂の山を作り始めた。

 二人を見ていたら、涙が出てきた。

 私も彼といられるのが今日までなら、我慢せず思い出を作ろうと思った。涙をぬぐってふたりのところへ走って行く。

「ママもお城を作っちゃおうかな」

「わあー、ままも?きゃあ!」

 乃蒼のこんな顔を見たのは初めてだ。玲さんと別れたら、しばらく乃蒼は辛いだろう。でも一緒に乗り越える。

 私は夏期講習が終わったら、乃蒼と一緒に新しい生活をはじめようと思っていた。いいタイミングになりそうだ。

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