【改稿版】彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
自信と自覚
私達は彼のところへ引っ越した。そして、新しい保育園に通いだした時から乃蒼は『藤堂乃蒼』になった。
何度も家で『とうどうのあ』という名前を呪文のように唱えて、練習してから保育園の挨拶に臨んだ。うまくいったようだ。
迎えに行ったとき、私の心配はどこへやら、乃蒼は周囲をお友達に囲まれてにこにこしながら遊んでいた。ほっとした。
「乃蒼ちゃんは偉いですね。おもちゃや絵本を譲ってもらうと、すぐにその子の顔を見てありがとうと笑顔で言うんです。すぐに周りにお友達ができました」
先生から褒められてしまった。乃蒼は咲ちゃんが何かを譲ってくれるたびに、ありがとうと言うのが癖になっていた。彼女にとってそれは特別でなく自然なことだった。
その夜も玲さんは帰りが遅かった。二人で夕食を取ると、乃蒼は新しい環境で疲れていることもあり最近はすぐに寝てしまう。
実は引っ越しただけで、私達親子の生活は母子家庭だったころとほとんど変わっていない。
やっと家族で一緒に暮らしはじめたが、彼は同居し始めた頃から急に帰りが遅くなった。今まで頻繁に私達の所へ仕事帰りに姿を見せていたのが嘘のようだった。
朝食の時間にはすでに彼が家を出ていることもあり、乃蒼と話す時間が極端に減っていた。
「おかえりなさい。今日も遅くまでお疲れ様でした。毎日遅くて身体は大丈夫ですか?」
帰宅した玲さんは私を抱き寄せた。
「大丈夫に決まってる。今までとはモチベーションが違う。帰ってきたら愛する君がこうやって迎えてくれる」
彼はそのまま顔を寄せると私の唇にキスをおとした。
「はあ、本当に結婚は素晴らしい」
私は彼の手の上に自分の手を重ねて、彼の満足げな目を見つめた。