【改稿版】彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
「素敵だけど、私が着て大丈夫かしら」

「刺繍が入っているので、透けてすべてが完全に見えたりしません。とても素敵なんですよ。試しに一度試着なさったらいかがでしょうか?」

「そうだね。着てみたら?」

「こちらにどうぞ」

 店員に促されて試着室へ入った。

「時間があまりございませんので、このドレスに合う小物を選んできます。お客様の様子をご確認くださいませ」

 玲さんの声がする。

「琴乃どう?」

「後ろのホックが届かないの……店員さんを呼んでください」

 すると、彼がカーテンの隙間からするりと入ってきた。鏡に彼が映っている。

「きゃあ、何してるんですか!」

「お客様、私がお手伝い致しましょう」

「ちょ、ちょっと玲さん……」

「静かに。動かないで、琴乃」

 彼はホックを止めると、背中を抱いて後ろから鏡に映る私を見つめた。

「どうですか?」

「すごく綺麗だ」

 背中を鏡に向ける。背中はほとんど見えない。刺繍が浮き上がって見えて、思ったより清楚でとても素敵だ。
 
「じゃあ、これにします」

 返事がない。後ろを向いて彼に確認した。

「玲さん?」

「はー……」

「やっぱり大人っぽいから、似合わないですか?」

 彼は両手で自分の顔を覆った。ぶつぶつと言い出した。

「この服、後ろから見ると色気が……。パーティー中は仕事もあるから、君にずっとついていられない可能性もあるんだ。こんなドレスを着せたら、絶対誰かに声をかけられる。心配でおちおち仕事もしていられない」

「玲さんったらまたはじまった。買いかぶりすぎです。日奈さんのような綺麗な女優さんがたくさんいらしているんなら、私なんて引き立て役です。皆さんの目はそちらへに釘付けになりますから安心して」

< 174 / 192 >

この作品をシェア

pagetop