雨の降る日はジャズバーへ ――Cats that gather at night――
 ***【レン視点】

 まだ、バ-で数回しか歌っていなかった時の話。
 あの頃の僕は、今みたいに堂々と歌うことは出来ていなかった。なぜならステージに立つと、大勢の期待する眼差しがいつも向けられて凄く恐怖だった。それでも憧れのジャズシンガーの夢を捨てることが出来なくて、震える手を必死に抑えてステージに上がって歌い始めた。

 It would be happy to live life exactly the way you want, wouldn't it?
(自分の望む通りの人生を送れたら、幸せでしょうね。)

 However, when you take on a challenge and move toward your dreams, you shine.
(しかし、挑戦し、夢に向かって進むとき、あなたは輝きます。)

 Chasing your dreams is wonderful, but please don't push yourself too hard.
(夢を追いかけるのは素晴らしいことですが、どうか無理をしすぎないでくださいね。)

 The most wonderful thing about you is your smile.
(あなたの一番素敵なところは、その笑顔です。)

 When things are tough, I'll make you smile.
(辛いときは、あなたを笑顔にします。)

 You are not alone!
(あなた一人じゃありません!)

 Move forward! Move forward! Along the path you're on.
(前へ進め!前へ進め!今歩んでいるその道を。)

 歌っている最中、気になることがあった。観客の女性で、立ち尽くしながら泣いている瞳に、凄く引き込まれたからだ。

 歌い終えてステージを降りると、しばらくしてママに呼び出されて向かう。

「どうしたの?」
「あのね。あそこで座っている女性がレンと話したいって」
「うん。いいよ」

 僕はゆっくり席に向かい後ろ姿の女性に話し掛ける。
「今晩は、レンです」

 女性は振り向いて顔が見える。……あれ? さっき泣いていた女性だ。近くで見ると美人でモデルみたい。沈黙しているけど、どうして呼び出したんだろう。

 決心したような面持ちをした後、話し始める。
「最初、オリジナルの歌詞って言てたけど、録音で流してた演奏も貴方がしているの」

 驚いた! 今まで感想を貰えることはあったけど、技術を質問した人は居なかった。
「そうだよ! よく気が付いたね」

 女性は興味津々に何度も質問する。それが嬉しくて、無意識に制作過程の話しもしていた。しばらく話して自己紹介をしていないことを気付く。

「あの……貴方のお名前は?」
「菫」

 自分のジャズに興味を持ってくれたのが嬉しくて、素直な気持ちを告げた。
「話していて楽しかった。菫さんの事もゆっくりと聞きたいな。またここに来てくれる?」

 菫はゆっくりと頷いてから帰っていた。
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