恋も料理もじっくり弱火で
 宿題を全て終えてすっきりした気持ちになった柚葉は、机の引き出しから大切にしている一冊の『おいしかったものノート』を取り出した。
 ベッドの上に寝転がり、今日の日付を書き込むと、さらさらとシャーペンを走らせた。

〈調理部 みんなで作った肉じゃが〉
・じゃがいもは少し大きめに切ると、崩れなくてほくほくで美味しい。
・火を止めて少し置くのがコツ。味が芯までよく染みる!
・包丁は力任せじゃなくて、前に滑らせるように動かす。

「ふふっ……」

 今日教わったことを思い出しながら書いているだけなのに、あの甘辛い匂いが蘇ってくるようで自然と頬が緩む。
 そして次の行へ移る前に、柚葉はページの端に小さな星印を書き添えた。

☆秋月先輩の特製オムライス
 卵が信じられないくらいふわふわ。
 中のチキンライスとのバランスが最高だった。
 絶対に、また食べたい!

 書き終えると、柚葉はその文字を愛おしそうに指先でそっとなぞる。

「本当に美味しかったなぁ……。また食べられるといいな」

 ぽつりと零れた独り言は、夜の静かな部屋へと溶けていく。
 秋月の作った、あの優しい味の料理。
 調理部の皆と温かいお鍋を囲んだ食卓。
 お互いに「おいしい」と顔を見合わせて笑い合った時間。
 どれも思い返すだけで、胃袋だけでなく胸の奥までぽかぽかと温かくなっていくのが分かった。

「次はどんな料理を作るんだろう」

 考えただけで、明日の放課後が待ち遠しくてワクワクしてくる。気づけば口元には、心の底から嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
 ノートを閉じる前に、柚葉はもう一度だけそのページを開く。
 そして、『絶対に、また食べたい!』という強い決意表明の一文の横に、花丸印を付け加えた。

「よし、明日も頑張ろう!」

 ぱたん、と音を立ててノートを閉じる。
 その満面の笑顔は、まだ恋を知っている少女のものでは決してない。
 ただ、素晴らしい料理との「次の出会い」を心から心待ちにする、無邪気で食いしん坊な少女の笑顔だった。







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