恋も料理もじっくり弱火で
♡ご褒美バターロール



 調理部といえば、放課後になればいつでもおいしい料理が完成している――。
 そんなキラキラしたイメージを持つ人もいるかもしれない。
 だけど実際のところ、部活動の毎日がいつも順風満帆というわけではなかった。
 うっかり買い忘れた食材。
 思ったよりも早いペースで底をつく調味料。
 人数分ぎりぎりで計算したはずの材料が、なぜか足りなくなることだってある。
 美味しい一皿が食卓に並ぶその裏側には、実はたくさんの「しまった」と「どうしよう」のハプニングが隠れているのだ。
 そして、その日はまさに――。

「部長、大変です!」

 放課後の調理室に、少し焦ったような声が響き渡った。

「どうした?」

 スープ用の鍋に火をかけていた秋月が、お玉を片手に振り返る。棚の前に立っていた二年生の部員が、ひどく申し訳なさそうな顔でプラスチックの容器を差し出した。

「マヨネーズ、これっぽっちしかありません……」

 秋月が受け取って持ち上げてみると、容器は驚くほど軽かった。中身は完全に底が見えるほどしか残っていない。

「あれ?  補充してなかったっけ」
「昨日の三年生の自由実習で、思ったよりたくさん使っちゃったみたいで……」
「私が確認した時には、まだ十分あると思ってたんですけど。すみません!」

 秋月はすぐに冷蔵庫の中も一通り確認する。だが、予備のストックは見当たらない。追い打ちをかけるように、今度は冷蔵庫の野菜室を覗いていた一年生が声を上げた。

「先輩、レタスも足りないです!」
「レタスも?  そっちはどうして」
「今日、体験入部の一年生が予定より多く来ちゃって……このままだと人数分に全然足りないです」

 秋月は小さく息を吐いた。
 今日の調理メニューは、シャキシャキの野菜をたっぷり挟んだ特製サンドイッチ。マヨネーズもレタスも、その味と食感を決める絶対に欠かせない主役たちだ。どちらが欠けても、納得のいく料理は完成しない。
 調理室に、にわかに困惑の沈黙が流れる。

「……誰か、今から近くのスーパーまで買ってきますか?」

 一人の部員がそう提案すると、秋月は壁の時計へ視線を向けた。まだ調理の工程は始まったばかりだ。今から誰かが走れば、十分に試食の時間には間に合う。

「そうだな。じゃあ、誰か二人に――」

 秋月が静かに頷き、買い出しのメンバーを指名しようとした、まさにその時だった。

「はいっ!  私、行きます!」

 調理室の空気を震わせるような、元気いっぱいの声が響いた。
 全員の視線が、一斉に声の主――柚葉へと集まる。柚葉は勢いよく右手を挙げたまま、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべてみせた。

「買い出しなら、私に任せてください!  一番新鮮なレタスを見つけてきます!」

 その表情は、ハプニングに困っているというよりも、これから楽しい遠足にでも出かけるかのように生き生きと輝いていた。
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