恋も料理もじっくり弱火で
 その一言に、近くにいた二年生の先輩がくすりと笑う。

「ふふ、緒方ちゃん、こういう時本当に頼もしいね」
「はい!」

 柚葉はこれ以上ないほど誇らしげに胸を張って頷く。

「お母さんのお手伝いで、スーパーの買い出しなら日常茶飯事ですから!  任せてください!」
「……もしかして、売り場に並ぶ食べ物目当て?」
「ち、違いますっ! ……多分」

 あっけらかんと言い放つ柚葉に、調理室へどっと温かい笑いが広がる。
 そんな和やかな空気の中、秋月は棚の上の在庫表を見つめながら、真剣な表情でペンを走らせていた。

「待って。マヨネーズとレタスだけじゃなくて、明日の分の牛乳も残り少ないな……」

 小さく呟くと、ゆっくり顔を上げて柚葉を見つめる。

「柚葉ちゃん」
「はい!」
「それだけ買うとなると、流石に一人だと重くて持ちきれないかもしれない」

 その言葉に、近くで野菜を切っていた三年生の男子部員が口を開いた。

「あ、じゃあ俺が一緒に付いていこうか――」
「いや」

 秋月は穏やかに、しかしきっぱりと首を横へ振った。

「今日の一年生の人数だと、今ここで上級生の手が抜けるのは痛い。皆の作業が回らなくなるし」

 今日は体験入部も含めて一年生が多く、付きっきりで教える人員が必要だ。調理の指示出しが一通り終わっている部長の自分が少し抜けるくらいなら、全体の進行に支障は出ない。

「俺が行く。柚葉ちゃん、一緒に行こう」

 テキパキとした部長らしい判断に、その場の人員はすぐに納得して頷いた。

「了解です! じゃあ部長、買い出しお願いします!」
「こっちのスープは僕たちが進めておきますね」
「うん、頼んだよ」

 秋月は紺色のエプロンを丁寧に外し、ロッカーから財布を取り出す。
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