恋も料理もじっくり弱火で
 ひとしきり笑った後、横から世間話に花を咲かせる主婦の集団がやってきて、二人は精肉の前を離れる。
 同じ通りを進めば、次は牛乳売り場に辿り着いた。ここでも秋月の豆知識が披露される。

「牛乳選びにも何か気にした方が良いことってあるんですか?」
「特にはないけど、強いて言うなら賞味期限が遅い奥の商品から取ることかな。中には無調整とかに拘る人もいるけど、うちの部活はそこには拘りはない」
「それ、部長が言うんですね」
「……気にしていたらキリがないってだけ。作る料理とかによって使い分けるってのが正しいかな」

 言われた通りに奥から牛乳を二本取り出しカゴに入れると、秋月が手にしているメモの牛乳の項目に線を引いた。

「これで全部だ。……さて、そろそろ帰ろ───」
「先輩っ」

 歩き出そうとした秋月が、何かに気づいたようにぴたりと足を止めて振り返った。

「ん?  どうしたの、柚葉ちゃん」

 柚葉は少しだけ遠慮がちに、けれど期待を隠しきれない目で、ある方向をそっと人差し指で指差した。

「あの……先輩」

 その視線の先にあったのは、温かみのある照明に照らされ、色取り取りのパンが美しく並ぶベーカリーコーナーだった。
 さっきよりもさらに濃厚になった、小麦と焦がしバターの香ばしい匂いが売り場いっぱいに広がっている。

「あ……」

 秋月は思い出したように、ふっと小さく目元を和らげた。

「パンコーナー、ね」
「はい……!」

 柚葉は「バレちゃいましたか」と照れたようにえへへと笑う。

「さっき先輩、買い出しの用事が全部綺麗に終わったら、ちょっとだけ見るのを考えてくれるって言ってくださったので……!」
「ふふ、そういう美味しい約束だけは、本当にちゃんと覚えてるんだね」
「もちろんです!  私の記憶力の九割は食べ物でできてますから!」

 力強く胸を張る柚葉に、秋月はくすくすと肩を揺らして笑った。
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