恋も料理もじっくり弱火で
柚葉はパとパチと目を瞬かせ、トングを持つ先輩の手元を凝視した。
「ご、ご褒美ですか……!?」
「うん」
秋月はショーケース越しに並ぶ黄金色のパン達を眺めながら、まるで「今日の天気は良いね」とでも言うような、至って何気ない口調で言葉を続ける。
「急な買い出しだったのに付き合ってもらって、すごく助かったからさ」
「でも……っ」
柚葉はぶんぶんと慌てて首を横に振った。
「そんな、先輩に買ってもらうなんて悪いです! 私、ただ美味しいものに釣られて付いてきただけですし!」
「悪くないよ」
「本当に……本当に悪いですよ?」
「本当に悪くないって」
秋月はふっと穏やかに笑うと、カチャリと音を立てて『特製塩バターロール』を一つ器用に掴み、白いトレーの上へと優しく乗せた。
「これでいい? それとも、さっきのクリームパンの方が良かった?」
「いえ! これがいいです! これが最高です!」
柚葉はトレイの上のパンと秋月の顔を何度も交互に見比べ、最後には胸の前で両手を合わせて満面の笑みを咲かせた。
「……ありがとうございます! 大事に大事に食べます!」
その一切の打算がない、純度百%の喜びの笑顔だけでお礼としては十分すぎたのだろう。秋月も、引き摺られるように自然と目元を優しく和らげていた。
レジで会計を済ませ、自動ドアを潜ってスーパーの外へと出る。
ずっしりと重い牛乳やマヨネーズの入った大きな買い物袋は秋月が軽々と持ち、柚葉は油染みができないよう茶色の紙袋に入ったパンを、まるで宝物でも扱うかのように両手で大事そうに胸に抱えていた。
夕暮れの涼しい風が通りを吹き抜ける中、ベーカリーの袋からはまだ温かい熱が伝わってくる。
「……いただきます!」
学校まであと十分の距離すら、今の柚葉には我慢できなかった。
袋の口を少しだけ開け、そこから顔を覗かせた端っこを小さく一口、ぱくりと齧る。
さくっと小気味いい音を立てた表面の生地の後から、中に閉じ込められていた濃厚なバターの香りと程よい塩気が、じゅわっと口いっぱいに広がった。
「……っ!!」
柚葉の表情が、みるみるうちに輝きを増していく。
「美味しいです……! 信じられないくらい美味しいです、先輩!」
「はは、ちょうど焼きたてのタイミングだったからね」
「外側はカリッとサクサクなのに、中は驚くほどふわふわでモチモチで……あぁ、生きてて良かったです……!」
本当に幸せそうに両手で自分の頬を押さえる柚葉の姿に、秋月は思わず愛おしそうに笑みを零した。
「はは、大袈裟だな。そんなに美味しい?」
「はい! あ、秋月先輩も一口食べますか? すっごく美味しいですよ!」
そう言って、柚葉は何の迷いもなく、自分が今かじったばかりの紙袋ごとのパンを秋月の前へと差し出した。
「ご、ご褒美ですか……!?」
「うん」
秋月はショーケース越しに並ぶ黄金色のパン達を眺めながら、まるで「今日の天気は良いね」とでも言うような、至って何気ない口調で言葉を続ける。
「急な買い出しだったのに付き合ってもらって、すごく助かったからさ」
「でも……っ」
柚葉はぶんぶんと慌てて首を横に振った。
「そんな、先輩に買ってもらうなんて悪いです! 私、ただ美味しいものに釣られて付いてきただけですし!」
「悪くないよ」
「本当に……本当に悪いですよ?」
「本当に悪くないって」
秋月はふっと穏やかに笑うと、カチャリと音を立てて『特製塩バターロール』を一つ器用に掴み、白いトレーの上へと優しく乗せた。
「これでいい? それとも、さっきのクリームパンの方が良かった?」
「いえ! これがいいです! これが最高です!」
柚葉はトレイの上のパンと秋月の顔を何度も交互に見比べ、最後には胸の前で両手を合わせて満面の笑みを咲かせた。
「……ありがとうございます! 大事に大事に食べます!」
その一切の打算がない、純度百%の喜びの笑顔だけでお礼としては十分すぎたのだろう。秋月も、引き摺られるように自然と目元を優しく和らげていた。
レジで会計を済ませ、自動ドアを潜ってスーパーの外へと出る。
ずっしりと重い牛乳やマヨネーズの入った大きな買い物袋は秋月が軽々と持ち、柚葉は油染みができないよう茶色の紙袋に入ったパンを、まるで宝物でも扱うかのように両手で大事そうに胸に抱えていた。
夕暮れの涼しい風が通りを吹き抜ける中、ベーカリーの袋からはまだ温かい熱が伝わってくる。
「……いただきます!」
学校まであと十分の距離すら、今の柚葉には我慢できなかった。
袋の口を少しだけ開け、そこから顔を覗かせた端っこを小さく一口、ぱくりと齧る。
さくっと小気味いい音を立てた表面の生地の後から、中に閉じ込められていた濃厚なバターの香りと程よい塩気が、じゅわっと口いっぱいに広がった。
「……っ!!」
柚葉の表情が、みるみるうちに輝きを増していく。
「美味しいです……! 信じられないくらい美味しいです、先輩!」
「はは、ちょうど焼きたてのタイミングだったからね」
「外側はカリッとサクサクなのに、中は驚くほどふわふわでモチモチで……あぁ、生きてて良かったです……!」
本当に幸せそうに両手で自分の頬を押さえる柚葉の姿に、秋月は思わず愛おしそうに笑みを零した。
「はは、大袈裟だな。そんなに美味しい?」
「はい! あ、秋月先輩も一口食べますか? すっごく美味しいですよ!」
そう言って、柚葉は何の迷いもなく、自分が今かじったばかりの紙袋ごとのパンを秋月の前へと差し出した。