恋も料理もじっくり弱火で
無邪気で、あまりにも無防備なその仕草。間接キスなんて言葉は彼女の辞書には一文字も載っていないのだろう。そんな柚葉の真っ直ぐな瞳に見つめられ、秋月は一瞬だけ、時が止まったように動きを止めた。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
秋月は少しだけ照れくさそうに目元を和らげると、柚葉が差し出したパンの、齧られていない綺麗な反対側の端をそっと小さく一口齧った。
上品に口を動かし、味わうようにゆっくりと飲み込む。
「……うん、本当だ。有塩バターのコクがしっかり生地に溶け込んでて、すごくバランスがいい。これは美味しいね」
「ですよね! この底のカリカリしたところがまた最高なんです!」
「確かに、バターが鉄板に染み出して揚げ焼きみたいになってる。これは今度の部活の試作の参考になるな」
西日に照らされながら、本当に幸せそうに口を動かすその横顔を隣から見つめながら、秋月は心の中で小さく息を吐いた。
(……本当に、美味しそうに食べるな)
これまで何度も料理を作ってきたし、周囲から「美味しい」と褒められることだって日常茶飯事だった。
それでも、ここまで全身全霊で「食べる幸せ」を表現しながら、世界一美味しそうに平らげる人には、今までの人生でまだ出会ったことがない。
ただ隣でその笑顔を見ているだけで、不思議と自分の胸の奥まで満たされ、もっと美味しいものを作って驚かせてやりたい、という料理人としての原動力が湧き上がってくるのを感じていた。
「先輩?」
もぐもぐと口を動かしながら、柚葉が不思議そうに首を傾げる。
「どうかしました? 私の顔に、何か付いてますか?」
「……ううん、なんでもないよ」
秋月はふっと悪戯っぽく笑うと、少しだけ歩幅を広げて歩き出した。
「ほら、のんびりしてると部活のみんなが待ちくたびれちゃう。急いで帰ろう」
「あっ、待ってください先輩!」
柚葉も小走りでその隣へと並ぶ。
残りのパンが入った紙袋を落とさないように両手で大事そうに抱えながら、弾むように歩く彼女の姿を見て、秋月の口元にはまた小さな笑みが浮かんでいた。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
秋月は少しだけ照れくさそうに目元を和らげると、柚葉が差し出したパンの、齧られていない綺麗な反対側の端をそっと小さく一口齧った。
上品に口を動かし、味わうようにゆっくりと飲み込む。
「……うん、本当だ。有塩バターのコクがしっかり生地に溶け込んでて、すごくバランスがいい。これは美味しいね」
「ですよね! この底のカリカリしたところがまた最高なんです!」
「確かに、バターが鉄板に染み出して揚げ焼きみたいになってる。これは今度の部活の試作の参考になるな」
西日に照らされながら、本当に幸せそうに口を動かすその横顔を隣から見つめながら、秋月は心の中で小さく息を吐いた。
(……本当に、美味しそうに食べるな)
これまで何度も料理を作ってきたし、周囲から「美味しい」と褒められることだって日常茶飯事だった。
それでも、ここまで全身全霊で「食べる幸せ」を表現しながら、世界一美味しそうに平らげる人には、今までの人生でまだ出会ったことがない。
ただ隣でその笑顔を見ているだけで、不思議と自分の胸の奥まで満たされ、もっと美味しいものを作って驚かせてやりたい、という料理人としての原動力が湧き上がってくるのを感じていた。
「先輩?」
もぐもぐと口を動かしながら、柚葉が不思議そうに首を傾げる。
「どうかしました? 私の顔に、何か付いてますか?」
「……ううん、なんでもないよ」
秋月はふっと悪戯っぽく笑うと、少しだけ歩幅を広げて歩き出した。
「ほら、のんびりしてると部活のみんなが待ちくたびれちゃう。急いで帰ろう」
「あっ、待ってください先輩!」
柚葉も小走りでその隣へと並ぶ。
残りのパンが入った紙袋を落とさないように両手で大事そうに抱えながら、弾むように歩く彼女の姿を見て、秋月の口元にはまた小さな笑みが浮かんでいた。