恋も料理もじっくり弱火で
 そう認識した途端、秋月の手の大きさや、エプロン越しに見える男らしい肩幅、優しく細められた切れ長の瞳の全てが、強烈な色彩を持って柚葉の視界に飛び込んできた。

「……柚葉ちゃん?  どうしたと?  急にスプーン止めて」
「えっ!?  あ、ううん、なんでもないとです!  あ、なんでもないです!」

 パニックのあまり変な博多弁が移ってしまい、柚葉は真っ赤になってぶんぶんと首を振った。
 慌てて視線をオムライスへと落とす。

「……?  どっか口に合わんやった?」
「違います!  美味しすぎて、その、胸がいっぱいになっちゃって……っ」

 嘘じゃない。本当に、胸が苦しいくらいに熱くていっぱいなのだ。
 必死に顔を伏せてオムライスを口に運ぶ柚葉を見て、秋月は一瞬きょとんとしたあと、何かを察したようにふっと目元を和らげた。
 
「そっか。……ゆっくり食べんね。誰も取らんけん」

 そう言って、秋月は自分のカバンから水筒を取り出し、温かい麦茶をコップに注いで柚葉の横に置いてくれる。その一つ一つの動作が、驚くほど過保護で、優しい。
 夕暮れの調理室。
 窓から差し込む茜色の光が、二人の影を長く床に落としている。
 モグモグと口を動かす柚葉と、それを頬杖をつきながら静かに見守る秋月。
 昼間、結菜達に「先輩の博多弁を誰にも教えたくない」と思ったあの独占欲の理由が、今なら痛いほどよく分かる。
 この優しさも、この特別な味も、この柔らかい方言も、全部自分だけのものにしたいと、胃袋ではなく心が激しく求めていた。

「ねぇ、先輩」
「ん?」
「……やっぱり私、先輩の料理も、先輩の博多弁も、世界で一番特別です」

 もう「大好き」という言葉は恥ずかしくて使えなかったけれど、柚葉なりの精一杯の気持ちを込めて告げた。
 すると秋月は、一瞬だけ驚いたように目を丸くした後、今度は真っ赤になった耳の裏を隠すように顔を背け、小さく、けれどはっきりと聞き取れる博多弁で呟いた。

「……ずるいって、言うたろうもん。あんたにそんな顔で言われたら、次は何作ればいいか分からんくなるくさ」

 照れ隠しにぶっきらぼうに響くその声が、愛おしくて堪らない。
 甘いケチャップの香りと、夕暮れの静寂の中。自覚したばかりの恋心は、とろけるオムライスのように、二人の胸の奥でゆっくりと、確実に熱を帯びて溶け合っていった。
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