朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない
そこで、キューッと音を立てて車が急に止まる。

茜さんが急ブレーキをかけた。

僕は勢いでよろけた有希の肩を軽く押さえた。



「姉ちゃん急に止まってどうしたんだよ」



茜さんは窓を開けると、電子タバコを吸い出した。



「……いやなんか余りにも青春に満ちた甘い雰囲気にぶち上がってさ。私にもそんな時期、あったなぁって。必死で、無我夢中で。とにかくさ。まぁお姉さんに任せない。湊月くんの人生がかかった恋路のキューピッドになってあげる!」



「はぁ。それはありがたいですけど。どうか張り切りすぎないでください」



「さぁ、どうかしら」



ふぅーと煙を吐きながら、寒いわね、とシワを寄せる茜さんの横顔になぜか、いたずらな少女の顔が重なって見えた気がした。



そのまま車は、無事に病院の駐車場へと着く。



「新、茜さん、今日はありがとうございました」



「全然っす! 先輩、手出してください」



手を出すと新はこれ以上ないくらい力を入れた上、ブンブン振った。



「次、学校で会える時は……もっと……上手くなって待ってます。オレ、まだ骨折してませんし骨折するくらいがんばります」



また泣きそうになりながら、涙を貯めて返す新。



「お前が骨折して病院で会うのはごめんだぞ」



「ですね……」



「また学校で」



「はい!」



「ほら行くわよ。それじゃあ2人ともまたね。帰りは気を付けてね」



茜さんは何も言わずに新を回収して行った。

キューピッドになってくれるってどういうことなんだろう?

まぁ、どうでもいいか。

今は、目の前にいる有希のことだ。
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