銀河の雫
……けれど、あのとき……
抱きしめられたとき、感じた彼の気持ちは、本当に嘘だったの?
私を愛おしく抱き寄せた大きな手。
熱く見つめる瞳。
肌に触れた唇。
強く抱きしめた腕。
全てが私を好きだと、強く伝えてきた。
愛してるとか……言葉はなくても。
そう……確かに感じた。
子どもの頃も今も、彼が私を幾度も窮地から救ってくれたことには、間違いはない。
それまで否定するの?
それに、私は知っている。
彼が毎日、心血を注いで仕事をしているのを。
懸命に、ひとつでも多く融資を通そうとして悩んだり、夜遅くまで日々、奮闘している姿が目に浮かんだ。
そうだ……
所長は、いつも真剣にお客様と向き合っていた。
もしかしたら、私を簡単に受け入れられない理由が何かあるのかも知れない。
けど理由はどうであれ、事故みたいなものであり、一夜の情事には変わりないのだろう。
今後も関係を続けたいようには見えなかった。
その「ごめん」なのかな……
結局、儚い夢を見ただけだったんだね。
「おはようございます」
意を決して執務室に入ると、所長は席にいなかった。
まだミーティング中かな。
始業を伝えるチャイムが鳴り響き、皆、立ち上がる。
所長席は空のままだった。
副所長が話し始める。
「日向所長は本日から東京本社に出張です……」
出張……?
昨日は何も言ってなかったけど、今朝にでも決まったのかな。
……まぁ、派遣の私なんかに、そんなことイチイチ言わないか。
また心がチクリと音を立てた。
翌日も、翌々日も、所長は東京本社に出張のままだった。
……なんだか嫌な胸騒ぎを覚えた。