銀河の雫
「車のエンジンかけだがら、そろそろ行ぐよ」
玄関先から義姉が大声で促す。
「は~い」
「大也、準備できた?」
「もうちょっと」
壁にかかった時計をちらっと見る。
「もう、時間無いからね」
昨日のことが頭に浮かんだ。
『お兄ちゃんが幸せになるって、見せてあげて欲しいんです。だから明日……必ず来てください』
そんなこと、望まれていないことも分かっていた。
あの日、「ごめん」と言われたのが答えだ。
思わず、ため息をついた。
気を取り直して、バッグに荷物を押し込む。
「しずくちゃん、お客様」
兄嫁が玄関から叫ぶ。
えっ、私に会いに来る友人なんている訳ないし。
あ……もしや……
仲人の和賀さん?
奥様から無事に話を聞けたか、心配してくれたのかな?
「しずくちゃん」
「……はーい」
しぶしぶ重い腰を上げ、玄関に出た。
すりガラスの引き戸をガラガラと開ける。
「和賀さん、ご心配おかけ……して……」
そこに立っていたのは、小柄な和賀さん……
ではなく、見上げるほど長身の男性。
……所長だった。
真っ直ぐ私を見つめる視線に言葉を失う。
スーツ姿は、いつものまま。
少し会っていないだけなのに、なんだかとても懐かしく思えた。
今まで一緒に過ごした時間が、すさまじい勢いでフラッシュバックする。
寸分の乱れもなくネクタイが整えられ、ジャケットにはシワひとつない。
切ないほど、苦しいほど、眩しくて愛おしかった。