銀河の雫
「私、子持ちだし、経済力もない。若くもなければ、特別美人でもない。知っての通り、ホント、どうしようもない人間なんです」
所長は横に首を振った。
「けど……きっと三番目に……あなたのご両親の次にあなたを大切に思ってる人間です」
「これからの残りの人生、一緒に歩いて欲しいです」
まっすぐに見つめる瞳を見つめ返す。
「見掛け倒しだって、がっかりするかもよ」
「私だって所長をがっかりさせるかも」
「……いや、それはない。……それに俺はもう所長じゃない」
「所長じゃなくて……?」
「……参事兼ニューヨーク駐在員事務所長だけど」
「参……事……」
「いやっ、そういうことじゃなくてさぁ……」
「しょちょ……参事だって、そろそろ『月浦さん』じゃ、なくて……」
繋いだ手が熱くなり、汗ばむのが分かった。
「……しずく」
「陽……さん」
彼の顔がゆっくり近づいてくる。
私は瞳を閉じた。
唇にそっと柔らかな感触。
再び見つめ合う。
「子どもの頃からずっと、君が好きでした。俺と一緒に生きてください」
「はい」
「……俺と、結婚してください」
私は、こくん、と、うなずいた。
その瞬間、彼の胸の中にいた。
「ずっと、待たせてごめん」
「私こそ、ずっと独りぼっちにして、ごめんなさい」
「しずく……」
強く抱きしめられたまま、そっとまぶたを開いた。
その瞬間、月明かりの中、ひとすじの光が見えた気がした。
きっと……あれは、銀河の雫。
彼は耳元でささやいた。
「お見合いが成立して婚約に至るまでの交際期間は三時間だったね」
「あはっ、確かに」
「返事までは十五年もかかったのに」
そしてふたりで笑った。