銀河の雫
しばらくして中学に入った。

中二の初冬、部活帰りに商店街の裏通りを自転車で通りがかったとき……

あの子が独りで空を見上げていた。

思わず、自転車のブレーキを掛ける。

「……何……してんだ?」

「……」

こっちを見てフリーズしている。

急に話しかけて驚かせてしまったのか。

「星の観察か?」

自転車を降りて、彼女の横に立った。

「うん」

小さな声で応え、彼女は空をまた見上げた。

「なんの星座を探してるの?」

「……カシオペア」

小さくつぶやくと、彼女は空を指差した。

中腰になり、目線を追って空を見上げた。

「あれは……オリオン座」

不思議そうに俺を見る。

「カシオペアはね、こっち」

「ほら、Wの形をしてるだろ、あれがカシオペアだよ」

ゆっくりと、ほほえんだのが分かった。

「カシオペア、見つかった?」

彼女はこくりとうなずいた。

「カシオペアは別名、ラコニアの鍵ともいうんだ」

「鍵?」

「そう、鍵……昔、ラコニアというところで鍵が発明されたんだ。その形に似ていたことから名づけられたんだってさ」

「宇宙の……鍵……」

「うん」

星明かりの中、彼女は目をキラキラさせた。

「なんか……」

「ん?」

「宇宙ってこんなに広いんだね」

……そういえば、あの頃は、何も話さなかったな。

「星空を見てるとさ、自分なんて本当にちっぽけな存在だって思えてくるよな」

「うん。……悩んでることとか、馬鹿馬鹿しく思えてくる」

彼女が話すたび、白い息が吐き出されている。

「うん」

「嫌なこと全部、消えてくみたい」

「……ほんとだな」

ふたりの上に、こぼれ落ちそうな満天の星空が広がっていた。

「風邪引くから、家ん中、早く入りなよ」

「うん」

彼女は手を振ると、家の中に消えた。

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