キスから始まる恋は甘くて苦い
 夢中になりすぎた。

 拒絶してくれなかったら、今頃……

 少しは脈があると思った自分がとてつもなく浅はかで恥ずかしい。

 期待なんかするんじゃなかった。

 深いキスの余韻が甘美な分、余計に羞恥心が増す。

 あれは、ただ雰囲気に流されただけだろ?

 なのに、あんな風に返されたら怖くもなるよな?

 気まずくなるくらいなら、もういっそ会わない方が――

「蒼一さん?」

 廊下から迷子のような心細げな声がした。ほたるはさっきから「先輩」と呼ばなくなった。

「…………」

 返事をしようとして、口をつぐむ。

 もっと呼ばせたい。

 もっと探して、求めて、俺のことだけ考えればいい。

「蒼一さん」

 けれど、泣き出してしまいそうな声に心が揺れる。

「蒼一さ……」
「ここにいるよ」

 蒼一は堪らず、立ち上がって階段を駆け下りた。

「いなくなったと思った?」

 丈の長い白パーカーと黒いレギンスに身を包んだ、無防備なほたるを目にしてわざと冷たい言い方をする。

「は、はい」
「そんなわけないだろ。俺の家なんだから」

 突き放さないと可愛すぎて今度は押し倒してしまいそうだった。

「……そうですね」

 ほたるはどことなく元気がなかった。あんなことがあった後だから、無理もないか……。
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