キスから始まる恋は甘くて苦い
「テスト勉強ですか?」

 小さな机に広げた参考書やノートを見て、なるべく自然にふるまうよう努める。

「ごめん、散らかして」

 雅也は動かしていた手を止めた。

「いいんです。続けてください」

 来るたび、雅也はまひるのそばで勉強したり本を読んだりしている。
 それはとても穏やかな空間で、ふたりだけの世界に足を踏み入れたみたいだった。
 バイトを始めてから来る回数は減ったけれど、雅也は変わらず毎日ここに通い続けているようだ。

 1秒でも長くお姉ちゃんといたいんだな。

 その気持ちが今は痛いくらいにわかる。雅也がどれだけ辛い思いをしているのかも。

紫陽花(あじさい)か。綺麗だね」

 ほたるが持っている青い花を眺め、雅也が目を細めた。

「はい。今年も咲きましたから」

 自宅の庭に毎年咲く紫陽花はまひるのお気に入り。花瓶に挿しかえると病室が一気に華やいだ。

「まひるは、花の中だと紫陽花が一番好きって言ってたな」

 雅也は懐かしそうにベッドで眠る彼女を見つめた。

『特に、白い紫陽花が好き』

 ついこの間まで花よりもまぶしい笑顔を咲かせていたのに。

 今は、無言の眠り姫だ。

「そうですね。この時期になるとよく庭を眺めてました」

 ほたるは元気な姿の姉を思い出し、熱くなる目頭をそっと押さえた。

「お姉ちゃん、古風ですよね」

 涙声になってしまい、急いで笑みを作ってみせる。

「意外と好みは渋いかもね」

 雅也は同意して目を細めた。こうして、ふたりでまひるの思い出話をすることが増えた。
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