キスから始まる恋は甘くて苦い
 みんなが騒ぐのも無理ない、か。

 この人に優しくされたら、勘違いしたくなるかもしれない。
 
 それだけの魅力があることは認める。でも、自分だけに優しいわけではないことを自覚している。
 
 それでも、受け止めてほしいと思った――

『好きだったの』
 
 駅のホームへ電車が滑り込み、瞳の声は掻き消された。

「なんか言った?」

 瞳の顔に耳を近づける蒼一。

「あたしのお兄ちゃん、病気で亡くなったの」

 内緒話をするように蒼一の耳へ唇を寄せる。

「……そっか」

 彼がうなずくと電車のドアが開き……立ち止まったままの自分たちを追い越す人と肩がぶつかった。

「大丈夫?」
「……うん」

 蒼一に抱き寄せられ、たくましい胸に顔をうずめる。

「次は10分後か」

 泣いている瞳を隠すように抱きしめる。蒼一は、彼女の背を撫で続けた。

 誰にも言えなかった。

 言うつもりもなかった。

 なのに、彼の前では言葉が溢れた。

「小学校に上がるころ、両親が離婚したの。兄は父についていくことになって……」

 ふたりは、電車を何本も見送った。


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