キスから始まる恋は甘くて苦い
 購買でパンを買い、部室へ向かおうと食堂を出た省吾は渡り廊下で揉めている気配を察知して目を凝らした。

 ……永瀬?

 ほたるが誰かに髪を掴まれている、ように見える。省吾は慌てて駆け出した。

「永瀬」

 向かい合うふたりの手前で呼びかける。ヤバそうな感じがしたけれど、近づいてみるとそうでもない気がして省吾は首を捻った。

「渡くん」

 でも、ほたるはホッとしたような顔をしている。やっぱり駆けつけて良かったと思い直す。

「オレのダチが何か?」

 省吾が睨むと田中は値踏みするように彼を見返した。

「あんたこういうタイプも好きなんだ? 節操ないね」
「は? 永瀬はそんなんじゃねーし。なんでも恋愛に結びつけんなよ。男友達いないんですか?」
「わ、渡くん、やめて」

 上級生にガンを飛ばす彼にほたるは慌ててふたりの間に入った。

「ちょっと、聞き捨てならないんだけど!?」
「ごめんなさい! 渡くん、いくらなんでも失礼だよ」

 話がややこしくなってしまった。早く荷物を返してもらわなきゃいけないのに。

「失礼なのはそっちの方だろ。友達のことを悪く言われて黙ってられるかよ」
「渡くん……」
 
 ほたるは感動した。省吾がそんな風に思っていてくれたなんて、今すぐ桂に報告したいくらいだった。

「何、友情ごっこ? ダサ……」

 辟易した表情だけれど、さきほどの悪意のようなものは感じられない。ほたるは田中を見上げた。
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