サヨナラは未来のはじまり ―君が描いた物語の、その先へ―

第3話「現実世界の居場所」

どうしていいか分からず、麗美に助けを求める栞。

麗美に連絡してから十分ほど経った頃、麗美が図書館に現れた。

「図書館で落ち合おうなんて珍しいね!何かあったの?」

栞がいるところまで近づくと、見慣れない少年の姿があり、麗美の足が止まった。

「……え?どういうこと?」

栞ほどブレイブクロニクルにハマっているわけではなかった麗美だが、有名で大きな話題になっている漫画なだけに、キャラクターのことは知っている麗美。

麗美は数秒間、完全に固まった。

そして、持っていた鞄をゆっくり床に置く。

「……え、何これ」

栞は麗美に、読んでいた漫画が突然光を放ち、目の前に秀馬が漫画から出てきた経緯を説明した。

栞の説明を聞き、改めて麗美は秀馬をジロジロと見まわした。

そして、目を輝かせて言った。

「……う、うそでしょ……? なにこれ、クオリティ高ッ……!?!?」

悲鳴のような大声を上げると、麗美は秀馬の周囲をぐるぐると回り始めた。

「え、ちょっと待って!? この鎖、本物の金属!? 重厚感すごすぎない!? 髪型もメイクも完璧だし……っていうか顔面国宝すぎるんだけど! 栞、この人だれ!? プロのコスプレイヤー!?」

「…何だこの女…」

「きゃー! 声まで低い! ちょっとガラの悪いアレンジ入ってるけど、再現度高すぎて鳥肌立ったんだけど!」

麗美は秀馬の全身をじっくり見つめる。

衣装から髪型、武器ともいえる真紅の鎖。

全てにおいて高クオリティな仕上がりに、麗美のテンションが上がるが、本当に漫画から飛び出した秀馬だとはまだ信じていない様子。

麗美は秀馬に近づくと、写真撮影の許可をとる。

最初こそ嫌がっていた秀馬だったが、悪い気はしない様子。

麗美に言われるがまま秀馬はパシャパシャと撮影されるのだった。 

「麗美ちゃん…秀馬くん行く場所なくて、私の家には連れて帰れないし、そもそも子の格好じゃ外出たら目立ちそうだし、どうすればいいかな…」

栞が困っているのを見て、麗美はある人に電話をした。

そして、話はつけたからと人気のない裏門から出て、見慣れた車に乗り込んだ。


♦

車に乗り込むと、運転席には鵺斗の姿が。

神崎鵺斗。大学2年生。
栞と鵺斗は幼馴染で、麗美の彼氏。

麗美と鵺斗にとって栞は恋のキューピットのような存在だった。

「鵺斗くん久しぶり!」

「おう!栞も元気そうだね!」

「ところで麗美。急にどうしたんだ?」

「ごめん、急に呼び出して」

「それはいいけど……」

 鵺斗の視線が秀馬へ向く。

「……誰?」

栞は秀馬についての先ほど麗美に話したことを鵺斗にも説明したが、あまり頭に入っていない様子。

鵺斗も麗美同様、プロのコスプレイヤーがキャラクターになりきっているんだと思っているようだった。

麗美も鵺斗も漫画から飛び出した人であることを信用しているのかどうなのか栞にはあやしく感じていた。

それでも、深く追求せずに秀馬の存在を受け入れている鵺斗や麗美の存在は栞にとって心強かった。

秀馬は鵺斗のことを少し警戒している。

「……お前は何者だ?」

「俺?」

 鵺斗は少し考えた。

「大学生」

「……」

「栞の幼馴染で麗美の彼氏」

「……」

「それから、料理担当」

「料理?」

「うん」

 鵺斗はあっさり頷く。

「とりあえず、家に来る?」

 秀馬が警戒する。

「なぜ?」

「いや、ここにいても仕方ないだろ」

 そして鵺斗は、ごく普通の顔で言った。

「……事情は分からないけど、とりあえず飯食う?」

「…………は?」

 秀馬の目が点になった。

 栞も麗美も思わず顔を見合わせる。

 こんな状況で、まさかの「飯」。

 しかし鵺斗は真剣だった。

「腹減ってない?」

するとここで秀馬のお腹の音が鳴る。

恥ずかしそうに顔を赤らめる秀馬。

「とりあえず鵺斗の家へゴー!」

麗美の明るい掛け声に、車は鵺斗の家に向かうのだった。

♦

車の中。

まだ完全に警戒心が解かれていない秀馬に麗美は言った。

「鵺斗の料理は本当にすごいんだよ」

「そうなの?」

 栞が聞く。

「うん。料理だけはプロ並み」

「だけはって何?」

「他もできるよ?」

 鵺斗が苦笑する。

「料理、掃除、洗濯。家事全般」

 秀馬が窓の外を見ながら口を挟む。

「……なぜ大学生がそこまで家事をするんだ?」

「家に俺以外の人間がいるから」

「……?」

鵺斗はそれ以上説明しなかった。

栞も麗美もその理由を知っていた。

鵺斗の両親は仕事で家を空けることが多く、家では学校へ通いながら家族の面倒を見ていた。

鵺斗の外見はおしゃれな感じで、ピアスもかなり開けているため、近寄りがたそうに見えるが、話してみると親しみを感じさせる不思議な雰囲気もあった。

麗美は鵺斗の外見と中身のギャップにもハマったそう。

やがて車が住宅街へ入る。

「着いたよ」

鵺斗が車を停め、秀馬と麗美、栞も一緒に鵺斗の家におじゃますることに。

玄関を開けると、エプロンをつけた少年がお出迎えをしてくれた。

「おかえりー!麗美ちゃんも栞ちゃんもいらっしゃい!」

「朔真!手伝いしてくれてありがとうな」

朔真と呼ばれている少年は、10歳の小学生で鵺斗の弟だった。

人懐っこく笑顔が可愛い少年だが、秀馬を見て表情が変わった。

そして、秀馬も朔真を見て驚いた表情を見せるのだった。 


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