婚約破棄された悪役令嬢ですが、最推しの騎士様を愛でるのに忙しいのでノーダメージです!〜推しグッズ工房を立ち上げたら、なぜかご本人から甘やかされています〜
「ええと、殿下の仰る通り、我々の関係はもはや――実存主義的な行き詰まりを見せておりますわね。婚約解消の件、前向きに検討いたしましょう」
「……実存、なんだと?」
驚愕に目を見開く殿下。
その反応はまあまあ予測通りで、少し面白い。
だって、私だって自分でも何いってるのかよくわからないんだもん!
とはいえ、私は今日、この瞬間をもって『悪役令嬢』を廃業したのは確定。
今日、断罪の祭壇にのこのこ上がる気なんて無い。
だって、折角転生したっぽいのにーー!
その時だった。
重厚な扉が、音もなく開かれた。
「失礼いたします」
低く、地を這うような美しい声。
私の心臓が、今までにないくらい大きく跳ねた。
――否。それは私のオタク魂が激しく打ち鳴らすスタンディングオベーションだった。
銀色の髪をなびかせ、青灰色の瞳に理性の光を宿した騎士。
鋼のように鍛え上げられた長身が、漆黒と銀を基調とした近衛隊の制服に包まれている。
近衛騎士であり、エドウィン殿下の筆頭護衛騎士。
レイナルド・シュタイナー。
(――い、生きてる! 3Dだ! 画面越しじゃない、私の魂の聖域がそこにいる……!!)
生身のレイナルドは、そりゃあ美しいに決まっている。
だが、限界オタクである私が着目すべきはそこではない。
殿下の背後に控える際の、完璧な四十五度で固定された首筋のライン。
剣の柄に添えられた、手袋越しの骨ばった指の関節。
『禁欲』という概念が服を着て歩いているかのようなその人は――前世の私が、画面越しに狂おしいほどの情熱とお金を捧げた最推しだった。
(あああっ、あの手袋を噛み外すスチルにどれだけ課金したことか……っ!)
「殿下、お時間です。臨時会議が控えております」
「ああ、そうだったな」
エドウィン殿下が立ち上がる。
レイナルドは一礼し、影のように殿下の背後に控えた。
その、峻烈なまでに美しい横顔。
ダメだ。
このまま見送るなんて絶対ムリ。