大嫌いな兄の友人は、国民的アイドルです。

ep.16 お兄ちゃんは、今どこにいるんだろう

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最近。

私は、兄のことを考える時間が増えた。

きっかけは、ほんの些細なことだった。

テレビをつければ、昔兄が所属していたグループが映る。

街を歩けば、メンバーの広告を見かける。

音楽番組に出演すれば、スタッフさんたちが、

「このグループ、今すごい人気だよね」

なんて話している。

そのたびに。

私は、少しだけ複雑な気持ちになる。

「……お兄ちゃん」

今、何してるんだろう。

兄は今、俳優として活動している。

ドラマにも出ているし、映画にも出演している。

テレビで見かけることだってある。

でも。

私は、兄がアイドルを辞めた理由を知らない。

人気がなかったわけじゃない。

むしろ、人気だった。

グループも売れていた。

それなのに。

ある日突然。

兄はアイドルを辞めた。

そして。

何事もなかったみたいに、俳優になった。

「……普通、そんなことある?」

私はスマホを眺めながら呟いた。

兄に聞いたことはある。

何度も。

でも。

『いろいろあったんだよ』

いつも、それだけ。

それ以上は教えてくれない。

「……絶対、何かある」

私は確信していた。

兄は、何かを隠している。

でも。

それを私に話したくない理由も、分からない。

昔は何でも話してくれた。

研究生時代だって。

「今日、レッスンきつかった」

「お腹空いた」

「悠がまた寝てた」

そんなくだらない話を、毎日のようにしていた。

なのに。

今は。

兄の人生の一番大事な部分だけが、私から切り離されている。

「……なんで?」

少しだけ寂しかった。

そのとき。

スマホが震えた。

『美緒、今日東京?』

悠からだった。

『うん。音楽番組』

すぐに返信が来る。

『俺も』

『また一緒じゃん』

『よかった』

「……何が?」

思わず笑ってしまう。

『何が?』

『なんとなく』

「意味分かんない」

私はスマホを置いた。

でも。

少しだけ気持ちが軽くなった。

⸻

収録前。

私は楽屋で衣装を確認していた。

今日も東京の音楽番組。

最近は、こうして東京に来ることも増えた。

地方の劇場やショッピングモールで歌っていた私たちが。

今では、テレビ局の楽屋を使っている。

まだ夢みたいだ。

「美緒、今日も可愛い!」

「ありがとう」

「最近ほんと忙しいよね」

「うん」

「でも楽しい」

そう答えた。

アイドルになってよかった。

そう思える。

兄とは違う道だけど。

私には私の場所がある。

そう思っていた。

――そのとき。

廊下の向こうから、歓声が聞こえた。

「きゃー!」

「朝比奈くん!」

「悠くん!」

「……また?」

私は呆れながら廊下を見る。

そこには。

いつものように女性アイドルたちに囲まれている悠。

「このあとご飯行こうよ!」

「えー……」

「また『めんどくさい』って言うんでしょ?」

「だって疲れたし」

「朝比奈くん、本当にマイペース!」

「うん」

「認めるんだ!」

みんなが笑う。

悠も笑っている。

私はその光景を眺めながら。

なぜか、少しだけ笑ってしまった。

「……ほんと、変わらないな」

昔から。

どれだけ人気になっても。

どれだけ有名になっても。

悠は悠だ。

そのとき。

悠がこちらに気づいた。

「あ!」

一瞬で人の輪から抜けてくる。

「美緒!」

「……何?」

「いた!」

「いたけど」

「探してた」

「嘘」

「ほんと」

「女の子に囲まれてたくせに」

「え?」

「……何でもない」

「怒ってる?」

「怒ってない」

「お腹減ってる?」

「違う!」

「じゃあ――」

「もういい!」

私は先に歩き出した。

後ろから悠がついてくる。

「待ってよー」

「来ないで」

「なんで?」

「知らない!」

「ガムあるよ?」

「いらない!」

「今日のも期間限定」

「……」

「美緒の好きなやつ」

「……あとで」

「食べるの?」

「……食べる」

「やった」

悠が笑う。

私も。

つられて少し笑った。

でも。

ふと。

兄のことを思い出す。

兄も昔。

こんなふうに笑っていた。

悠と一緒に。

私の隣で。

――三人で。

「……お兄ちゃん」

「ん?」

「……何でもない」

今はまだ。

兄は私の前にいない。

私は、その理由すら知らない。

だけど。

いつか。

ちゃんと聞きたい。

どうしてアイドルを辞めたのか。

どうして何も話してくれないのか。

そして。

あの頃、三人の間に何があったのか。

「美緒?」

「……うん?」

「なんか考え事してる?」

「うん」

「何?」

「お兄ちゃんのこと」

悠の表情が、ほんの少しだけ変わった。

「……玲央?」

「うん」

「そっか」

それ以上、悠は何も言わなかった。

私はまだ知らない。

この数時間後。

兄の過去を知る人物と。

久しぶりに再会することになるなんて。
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